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元気な老舗・湖池屋のリブランディング成功の秘密、「プライドポテト」の差別化戦略とは

<情報工場 「読学」のススメ#125>『湖池屋の流儀』(佐藤 章 著)
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ポテトチップスの「湖池屋」が元気な理由

日本で初めてポテトチップスの量産化に成功した、スナック菓子メーカーの「湖池屋」。1953年創業の老舗が今、元気だ。2024年3月期の経常利益は前期に続く過去最高益の予想だが、この2月には通期予想を上方修正し、前期比82.6%増の33億円を見込む。増配と記念配当も発表した。好調の要因は、昨年リニューアルした「湖池屋ポテトチップス」をはじめ、各ブランドの販売好調や、コスト削減効果などとされている。

この業績好調の立役者と言えるのが、代表取締役社長を務める佐藤章さんだ。長年キリンでマーケターとして活躍。ビールでは「キリンブラウマイスター」、缶コーヒーの「FIRE」、さらに「キリンフリー」など大ヒット商品を多数手掛けた。2016年に、当時2期連続赤字だったフレンテ(現・湖池屋)に転じ、社長に就任。以降、ブランディング戦略を軸に同社の立て直しを牽引してきた。

佐藤さん自身が、湖池屋改革の要諦をまとめたのが『湖池屋の流儀』(中央公論新社)だ。キリン時代の経験にも触れつつ、大ヒット商品「プライドポテト」などの開発秘話、スナック菓子への思いなどが綴られる。明かされる一流のマーケターの思考は、多くの示唆にあふれている。

起死回生の「プライドポテト」の差別化戦略

佐藤さんがフレンテに転身した2016年頃、ポテトチップス市場は安売り合戦の様相を呈していた。大手メーカーの商品をはじめ、100円前後で多くの種類のポテトチップスが出回っていたのをご記憶の方は多いだろう。

湖池屋の立て直しにあたって、佐藤さんはまず、2004年以来「フレンテ」となっていた社名を「湖池屋」と名乗り直すことを決める。さらに、六角形のマークに「湖」の文字を入れた印象的なロゴマークを定めた。そして、創業者である小池和夫さんの熱量とこだわりを復活させる、「新生・湖池屋」のシンボルとなるような商品の開発を目指したのである。

こうして生まれたのが、国産のじゃがいもと料理のような味付けにこだわった「プライドポテト」なのだ。この商品では、さまざまな要素において起死回生の差別化戦略に打って出た。パッケージは、底が平らな自立する形。印象的なデザイン、さらに、当時のデフレ下にもかかわらず150円のプレミアム価格で市場に切り込んだ。自信満々だったわけではなく、佐藤さんは不安で眠れなくなったりもしたようだ。しかし、これが大ヒットにつながる。

スーパーやコンビニの店頭には、何種類ものプライドポテトが面陳されているが、それらのパッケージを眺めると、いまなおその斬新さが際立っている印象だ。「神のり塩」「ぞっこん岩塩」「通の黒胡椒」など、ネーミングもお洒落な居酒屋のメニューのようで、思わず手に取りたくなる。

近年は、老舗も含め、企業のリブランディングの成功例は増えているように感じられる。製造業でいえば、新潟県の家電メーカー・ツインバードは、燕三条地域というものづくりの技術が集積する土地柄、国内に自社工場を持つという強みを活かしつつ、新しいブランドプロミスやロゴを掲げてリブランディングに成功した。マツダも2010年以降、日本独特の美意識に基づく「魂動デザイン」の採用で世界的な評価を得、販売店の刷新などブランドイメージの改革にも成功した。

いずれの例を見ても、リブランディングの要諦は、自社のルーツや本質、強みを見極めたうえで、自社の在り方を再定義し、新たなトレンドや顧客ニーズに沿った改革を実行することだ。「言うは易し」だが、考え抜き、動き出さなければ何も始まらないのは間違いない。

「経営者」兼「商品開発者」としての生き方

この本からは、湖池屋のリブランディングのストーリーと同時に、佐藤さん自身が仕事にかける熱量が伝わってくる。キリンで営業を担当していた1987年、競合アサヒの新商品「スーパードライ」の躍進に打ちのめされる。圧倒的な「商品力」を前に、一営業マンの力では太刀打ちできないということを思い知るのだ。この挫折が、その後マーケターとして、強烈な商品力を持つ品を世に出すアイデアやセンス、ここぞというときに「逆目」で振り切る思い切りの良さの土台となっているのだろう。

経営者としてだけでなく、「商品開発者」であり続けたいという思いから、佐藤さんは34年間務めたキリンを去ることを決めたという。自身のキャリアを会社という組織の中に限定して考えるのではなく、自分のやりたいことを軸にして考えた結果だ。

今でも佐藤さんは「ああしろ、こういう味にしろとはもちろん口をはさむ」という。そうした指示やアドバイスには、キリン時代から幅広くあらゆるものを口にし、顧客の口にあうものを考え抜いてきた経験や知識が、存分に発揮されている。キリンでのそうした経験があったからこそ、、経営者兼商品開発者としての現在の生き方を、佐藤さんは実現できている。

今後は、湖池屋の現在の勢いを、どう次代につないでいくかも重要なテーマになるだろう。幸い、リブランディングの効果もあって有望な若手が多く入ってきているようだ。今後、湖池屋がスナック菓子をどう進化させていくのか、楽しみにしたい。(文=情報工場「SERENDIP」編集部 前田真織)

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『湖池屋の流儀』――老舗を再生させたブランディング戦略
佐藤 章 著
中央公論新社
200p 1,760円(税込)
吉川清史
吉川清史 Yoshikawa Kiyoshi 情報工場 チーフエディター
佐藤・湖池屋社長がキリンビール商品企画部時代に手がけた「ブラウマイスター」や「ビール職人」は、優れたビール醸造職人が製法や原料にこだわり抜いたブランドで、「湖池屋プライドポテト」とコンセプトが似通っている。佐藤氏のキリンでの先輩に、「ハートランド」や「一番搾り」、「氷結」などの開発に携わった故・前田仁氏がいるが、「本質」を重視するスピリットは脈々と受け継がれているのだろう。本書によると佐藤氏は、古代中国の五行思想などをもとにした「自然と人間」というモチーフを常に持ち続けている。ビールやポテトチップスをどう売れるようにするか、というよりも、「世界はどういう仕組みになっているのか」という、とてつもなく広い視点で開発に臨んでいるからこそ、多様で本質的なアイデアが生み出せるのに違いない。

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