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ダイムラー傘下で存在意義を問われたマザー工場。10年計画で仕上げた改革の中身

三菱ふそうの川崎製作所、工場の大きな幹と物の流れをつくる
ダイムラー傘下で存在意義を問われたマザー工場。10年計画で仕上げた改革の中身

エンジンに熱交換器などを取り付けるパワーパックライン

 三菱ふそうトラック・バスはトラックを生産する川崎製作所(川崎市中原区)でモノづくりの「質」をさらに底上げする。モノのインターネット(IoT)技術の活用や部品メーカーとの連携強化で品質改善や効率化に取り組む。2015年に組み立てラインを一直線にして工場中央に再配置するなど、07年から取り組む再編に一定のめどをつけた。今後は運用面の改善に注力し、筋肉質な生産体制を築く。

 「工場の大きな幹と物の流れをつくった。今後は動線の中でのいろいろな改善にチャレンジしたい」。三菱ふそうの元山義郎副社長は大規模な組み替えを終えた生産ラインの活用に意欲を示す。

 再編を機に14年8月からRFID(無線識別)タグを車台に装着して生産を管理する。取り付ける部品と部品を運ぶ無人搬送車(AGV)の情報も連動させ組み付けミスを予防。

IoTを活用し改善を継続


 アクスル(車軸)など重要保安部品では、自動機でボルトを締め付けたトルクを作業履歴として蓄積し、品質管理に役立てる。今後はこうした基盤にIoTを活用して生産設備などと連動。生産の効率化や品質保証体制の強化につなげる。

 組み立てラインでは取り付け可能な状態で部品を納める仕組みを導入。例えばエンジンは別の建屋にサブラインを設置し、変速機と熱交換器を取り付けユニットにした状態で供給する。

 部品メーカーの搬入方法も1車種で数百種類以上あるトラックの車型1台1台に合わせ、部品を順序立てて受け入れる仕組み「ジャスト・イン・シーケンス」に置き換える。従来の方法では川崎製作所内中心の物流改善に留まっていたが、部品メーカーの資材調達段階までさかのぼって無駄な在庫の削減を目指す。

次は年産24万台体制へ


 川崎製作所は07年から10年計画で再編に着手した。まず大型と中型トラックの組み立てラインを1本に集約。小型トラックの組み立てラインと平行に工場中央に再配置し、組み立てから検査まで一気通貫の直線ラインを敷いた。

 アクスルなどのユニット部品は組み立てラインと直角方向にサブラインを設置。組み立てラインを魚の背骨に見立て、サブラインが小骨のように伸びる「フィッシュ・ボーン」構造を構築し、モノづくりの動線を改善した。これまでに100億円強を投じ、構内物流に携わる人員やフォークリフトの台数を約4割減らした。

 三菱ふそうはインドのグループ会社と20年までに計30万台の車両販売目標を掲げ、うち約8割の生産を川崎製作所が担う。今後もエンジンの組み立てや加工設備のリニューアルに向け投資を継続。再配置した生産ラインをベースに改善を重ね、現状約20万台の年産能力を24万台規模に引き上げる。

 日本の商用車市場は人口減少などから20年の東京五輪を境に需要の減少が見込まれる。20年以降もマザー工場として輸出競争力を維持するためにも、筋肉質な生産体制を築き上げる。
(文=西沢亮)
日刊工業新聞2016年3月24日 自動車面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
独ダイムラーの傘下に入ったのが2000年代前半。その時問われたのがグループ内での川崎製作所の存在意義でした。工場移転など大規模な投資が難しい中で世界最高峰の輸出競争力を実現するため考えたのが、生産ラインの再配置です。同じ敷地内でトラックを生産しながら新工場を建てるような再編策で、実行には10年近くかかりました。工場の骨格が定まり、その能力を引き出す作業は人に委ねられました。グローバル企業の一員になると評価の目も世界基準になります。今後は川崎を舞台に日本のモノづくりで世界を驚かせてもらいたいです。 (日刊工業新聞社編集局第一産業部・西沢亮)

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