尿1滴でがん診断が可能という大注目の「線虫」―糖尿病や宇宙実験でも活躍!
寄生虫は世界を変えられるか!?きっかけはサバの食中毒だった
九州大学大学院理学研究院の広津崇亮(たかあき)助教や伊万里有田共立病院(佐賀県西松浦郡)の園田英人外科部長らの研究チームは、尿1滴でがんを診断できる手法を開発した。がんのにおいに線虫が引き寄せられる現象に着目し、ヒトの尿に対する線虫の行動から95%以上の確率でがんを判別する。実用化すれば1検体当たりのコストが数百円と従来手法の10分の1程度に低減できる見通し。日立製作所、JOHNANと共同で同手法の装置化などを進め、早期実用化を目指す。
線虫を利用したがん診断テストですべてのがんを検出できる。これまで別々に行ってきたがん診断が1回で済む可能性がある。今後、尿1滴でがんの種類まで特定できるシステムの開発を進めていく。成果は12日、米電子版科学誌プロスワンに掲載される。
研究チームは線虫の一種「C・エレガンス」を使い、がん患者の尿に対する行動パターンを調べた。がん患者と健常者合わせて30人の尿を寒天培地上にたらし、線虫の行動を観察した。がん患者の尿に線虫が誘導される半面、健常者の尿には線虫が近づかないよう行動することが分かった。
さらにがん患者24人、健常者218人の尿を使い、線虫の行動によるがん診断テストの精度を調べた。「がん患者をがん」「健常者を健常者」と診断できる確率がともに95%以上だった。
さらにがん患者中5例について、尿の採取時点の通常検査でがんが判明しておらず、それから2年後までにがんが判明した。今回開発した手法により、従来の検診で見つけられなかった早期がんを発見できる可能性がある。
発見のきっかけとなったのは食中毒だった。伊万里有田共立病院でサバに当たった食中毒患者の胃の中を調べたところ、線虫のアニサキスが寄生していた場所に未発見のがんを見つけた。九大の実験で使われた「C・エレガンス」は、アニサキスと同じ線虫の仲間。
(日刊工業新聞2015年03月12日 科学技術・大学面に一部加筆)
<関連記事>
九州大学の味覚・嗅覚センサ研究開発センター(センター長=都甲潔主幹教授)は、民間企業2社と、線虫の嗅覚を活用したバイオセンサー開発で共同研究を始める。同センター応用医療センシング部門が、19日に日立製作所中央研究所(東京都国分寺市)と、10月上旬にJOHNAN(京都府宇治市)と共同研究契約を結ぶ。
共同研究では、ヒトと同じ形態の嗅覚受容体を持つ線虫の、においと受容体のメカニズム解明に取り組む。研究の中心は都甲教授と同大院理学研究院の広津崇亮助教。九大は、研究予算として最初の2年間で数千万円を投じる計画。研究成果を活用し、日立とは線虫のにおい受容体を活用した次世代がん診断システムを、JOHNANとは同様のバイオセンサー装置などの開発を進める。
開発する診断システムとして、家庭内で尿を採取した後、検体を最寄りの検査機関に送付することで結果が数日で届くといったものを想定。消耗品や検査機関で用いる装置・システムを開発する。これにより3―5年後を目標に、乳がんや子宮がん、肺がん、膵臓(すいぞう)がんなどを自宅で簡単に発見できるようにする。
(日刊工業新聞2014年09月19日 科学技術・大学面)
【東北大など、植物と線虫で生命科学実験】
東北大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究チームは、国際宇宙ステーション(ISS)で、植物と線虫を用いた宇宙での微小重力環境下による生命科学実験を始めた。植物実験では、茎や根の先端部が成長過程で円運動するアサガオのつる巻き現象などを分子レベルで解明。線虫の実験に関しては、ヒトと同じように微小重力の影響によって筋量の減少が判明しているが、今回の実験では線虫の遺伝子変異や変化が世代を経て受け継がれる可能性を調べる。成果を将来、宇宙での植物工場の運営や有人火星探査などに役立てる。
今回の宇宙実験では、東北大院生命科学研究科の高橋秀幸教授が植物を、東谷篤志教授が線虫の研究を担当する。ISSの日本実験棟「きぼう」で実験に着手。試料は米宇宙ベンチャー、スペースX社の宇宙船「ドラゴン」に載せてISSへ輸送された。
アサガオの実験では微小重力下で発芽成長させた後、軌道上で人工的に作り出した地球と同じ重力1G(Gは重力加速度)環境下で実施。この環境条件を逆にして、人工重力1Gで発芽させた後、微小重力下でも行う。微小重力と1Gでの実験は、同様にイネも使って実施される。
高橋教授は軌道上での植物実験について「地上でモニターカメラの画像を見ながら、成長過程を観察する。植物が重力を感じるセンサー機能を解明すれば、微小電気機械システム(MEMS)に利用できる」と産業応用を期待する。
一方、これまで体長1ミリメートルの線虫を使った宇宙実験では微小重力下で生育すると筋肉を構成するたんぱく質の遺伝子発現が低下し、筋量の減少が分かっていた。今回の実験では4日程度で卵から成虫に成長する線虫の遺伝子を変異させたもの2種類と、変異させていないものを宇宙へ持ち込んだ。
冷蔵保存の状態で輸送された線虫は、植物と同様に1G環境と微小重力環境下での変異や変化を、4世代分の遺伝子について、どのように受け継がれるかを調べる。試料は凍結保存され軌道上に1カ月程度係留中のドラゴン宇宙船に載せて地球に持ち帰り、詳しく分析する。東谷教授は「線虫の世代ごとの遺伝子変化を観察することで、ヒトへの微小重力の影響を詳しく調べたい」としている。
(日刊工業新聞2015年01月27日 科学技術・大学面)
【熊本大学、線虫で糖尿病患者の症状緩和に寄与する仕組み解明】
熊本大学大学院薬学教育部遺伝子機能応用学分野の甲斐広文教授らは、微弱パルス電流が肥満2型糖尿病患者の症状緩和に寄与する仕組みを解明した。微弱パルス電流が代謝応答やストレス感受性の決定に重要な分子「AMPK」を活性化させ、過剰な脂肪蓄積を抑えることが分かった。今回の結果を踏まえ、同大医学部代謝内科学分野の荒木栄一教授らと共同開発した特定の微弱パルス電流を発する医療機器について、糖尿病向けに2年後の発売を目指す。
線虫を使って作用メカニズムを解析した。微弱パルス電流を処置した線虫はAMPKが顕著に活性化し、グルコースによる過剰な脂肪蓄積が抑制された。AMPKが活性化された原因は、微弱パルス電流がミトコンドリアの活性を一時的かつわずかに抑えたことで、細胞内にあるエネルギー貯蔵物質「ATP」が減ったためという。
線虫を利用したがん診断テストですべてのがんを検出できる。これまで別々に行ってきたがん診断が1回で済む可能性がある。今後、尿1滴でがんの種類まで特定できるシステムの開発を進めていく。成果は12日、米電子版科学誌プロスワンに掲載される。
研究チームは線虫の一種「C・エレガンス」を使い、がん患者の尿に対する行動パターンを調べた。がん患者と健常者合わせて30人の尿を寒天培地上にたらし、線虫の行動を観察した。がん患者の尿に線虫が誘導される半面、健常者の尿には線虫が近づかないよう行動することが分かった。
さらにがん患者24人、健常者218人の尿を使い、線虫の行動によるがん診断テストの精度を調べた。「がん患者をがん」「健常者を健常者」と診断できる確率がともに95%以上だった。
さらにがん患者中5例について、尿の採取時点の通常検査でがんが判明しておらず、それから2年後までにがんが判明した。今回開発した手法により、従来の検診で見つけられなかった早期がんを発見できる可能性がある。
発見のきっかけとなったのは食中毒だった。伊万里有田共立病院でサバに当たった食中毒患者の胃の中を調べたところ、線虫のアニサキスが寄生していた場所に未発見のがんを見つけた。九大の実験で使われた「C・エレガンス」は、アニサキスと同じ線虫の仲間。
(日刊工業新聞2015年03月12日 科学技術・大学面に一部加筆)
<関連記事>
九州大学の味覚・嗅覚センサ研究開発センター(センター長=都甲潔主幹教授)は、民間企業2社と、線虫の嗅覚を活用したバイオセンサー開発で共同研究を始める。同センター応用医療センシング部門が、19日に日立製作所中央研究所(東京都国分寺市)と、10月上旬にJOHNAN(京都府宇治市)と共同研究契約を結ぶ。
共同研究では、ヒトと同じ形態の嗅覚受容体を持つ線虫の、においと受容体のメカニズム解明に取り組む。研究の中心は都甲教授と同大院理学研究院の広津崇亮助教。九大は、研究予算として最初の2年間で数千万円を投じる計画。研究成果を活用し、日立とは線虫のにおい受容体を活用した次世代がん診断システムを、JOHNANとは同様のバイオセンサー装置などの開発を進める。
開発する診断システムとして、家庭内で尿を採取した後、検体を最寄りの検査機関に送付することで結果が数日で届くといったものを想定。消耗品や検査機関で用いる装置・システムを開発する。これにより3―5年後を目標に、乳がんや子宮がん、肺がん、膵臓(すいぞう)がんなどを自宅で簡単に発見できるようにする。
(日刊工業新聞2014年09月19日 科学技術・大学面)
【東北大など、植物と線虫で生命科学実験】
東北大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究チームは、国際宇宙ステーション(ISS)で、植物と線虫を用いた宇宙での微小重力環境下による生命科学実験を始めた。植物実験では、茎や根の先端部が成長過程で円運動するアサガオのつる巻き現象などを分子レベルで解明。線虫の実験に関しては、ヒトと同じように微小重力の影響によって筋量の減少が判明しているが、今回の実験では線虫の遺伝子変異や変化が世代を経て受け継がれる可能性を調べる。成果を将来、宇宙での植物工場の運営や有人火星探査などに役立てる。
今回の宇宙実験では、東北大院生命科学研究科の高橋秀幸教授が植物を、東谷篤志教授が線虫の研究を担当する。ISSの日本実験棟「きぼう」で実験に着手。試料は米宇宙ベンチャー、スペースX社の宇宙船「ドラゴン」に載せてISSへ輸送された。
アサガオの実験では微小重力下で発芽成長させた後、軌道上で人工的に作り出した地球と同じ重力1G(Gは重力加速度)環境下で実施。この環境条件を逆にして、人工重力1Gで発芽させた後、微小重力下でも行う。微小重力と1Gでの実験は、同様にイネも使って実施される。
高橋教授は軌道上での植物実験について「地上でモニターカメラの画像を見ながら、成長過程を観察する。植物が重力を感じるセンサー機能を解明すれば、微小電気機械システム(MEMS)に利用できる」と産業応用を期待する。
一方、これまで体長1ミリメートルの線虫を使った宇宙実験では微小重力下で生育すると筋肉を構成するたんぱく質の遺伝子発現が低下し、筋量の減少が分かっていた。今回の実験では4日程度で卵から成虫に成長する線虫の遺伝子を変異させたもの2種類と、変異させていないものを宇宙へ持ち込んだ。
冷蔵保存の状態で輸送された線虫は、植物と同様に1G環境と微小重力環境下での変異や変化を、4世代分の遺伝子について、どのように受け継がれるかを調べる。試料は凍結保存され軌道上に1カ月程度係留中のドラゴン宇宙船に載せて地球に持ち帰り、詳しく分析する。東谷教授は「線虫の世代ごとの遺伝子変化を観察することで、ヒトへの微小重力の影響を詳しく調べたい」としている。
(日刊工業新聞2015年01月27日 科学技術・大学面)
【熊本大学、線虫で糖尿病患者の症状緩和に寄与する仕組み解明】
熊本大学大学院薬学教育部遺伝子機能応用学分野の甲斐広文教授らは、微弱パルス電流が肥満2型糖尿病患者の症状緩和に寄与する仕組みを解明した。微弱パルス電流が代謝応答やストレス感受性の決定に重要な分子「AMPK」を活性化させ、過剰な脂肪蓄積を抑えることが分かった。今回の結果を踏まえ、同大医学部代謝内科学分野の荒木栄一教授らと共同開発した特定の微弱パルス電流を発する医療機器について、糖尿病向けに2年後の発売を目指す。
線虫を使って作用メカニズムを解析した。微弱パルス電流を処置した線虫はAMPKが顕著に活性化し、グルコースによる過剰な脂肪蓄積が抑制された。AMPKが活性化された原因は、微弱パルス電流がミトコンドリアの活性を一時的かつわずかに抑えたことで、細胞内にあるエネルギー貯蔵物質「ATP」が減ったためという。
日刊工業新聞2014年12月22日 科学技術・大学面