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巨額損失のIHI。満岡次期社長「数字で実績を示すことが任務」

自己変革へ投下資本利益率を重視
巨額損失のIHI。満岡次期社長「数字で実績を示すことが任務」

満岡氏

 ボイラ工事や海洋事業で巨額損失を計上したIHI。会長に就く斎藤保最高経営責任者(CEO)がグループ戦略を担い、社長兼最高執行責任者(COO)として業務執行に専念する二人三脚の体制で非常事態からの脱却を図る。

 「『下振れは特殊要因』という言い訳をしない会社にする。数字で実績を示すことが求められたミッション。以前はどちらかというと規模を追ってきたが、次期経営計画では明確に収益を刈り取る。検討段階でリスクに手を当て、改善を盛り込み、いかに丁寧に契約を作り込むかだ」。

 主力の航空機用エンジン事業畑を歩んできた知見を生かし、資源・エネルギー・環境事業領域を束ねる。

 「エンジンの先行開発では、量産に至るモノづくりプロセス全体の目線が必要。受注生産品の現場工事でも同様に、人と物をいかに取りまとめるかの先行検討が重要だ」。

 戦略事業単位(SBU)を再編した上で、ROIC(投下資本利益率)を評価基準に据えるなど利益重視の姿勢を鮮明にする。

 「各SBU長には理解してもらった。いかに浸透させるかが今後の課題。IHIグループとして所帯が大きいと錯覚すると、お金はどこかから回ってくるとの勘違いも起きる。自分の事業の立場を考え、キャッシュフローに執着を持たねば前に進まない。自己変革する上でもROICは重要だ」。

 発表後、たくさんのメールが舞い込んだ。1通目は祝辞がほとんどだったが、経営状況を鑑みて2通目には「素直に喜ぶだけではなさそう。頑張ってください」とのエールが多かったとか。多忙な日々を送っており、趣味の読書を楽しむ余裕がない。
(文=鈴木真央)
<略歴>
満岡次郎(みつおか・つぎお)80年(昭55)東大院工学系研究科修士修了、同年石川島播磨重工業(現IHI)入社。10年執行役員、13年常務執行役員、14年取締役。神奈川県出身、61歳。4月1日付就任予定。

ブラジル海洋合弁撤退、混迷脱出の糸口がほしい


 三菱重工業とIHIが、相次いでブラジルの造船・海洋合弁事業から撤退する。2014年8月に安倍晋三首相が訪伯し、海洋資源開発促進のための造船協力に関する共同声明を発表して1年半。経済協力だけでなく人的交流を通じた友好関係強化も期待されていただけに、民間の合弁解消は痛手だ。政府は粘り強く同国との関係維持を働きかけるべきだ。

 ブラジルでは経済の低迷や石油価格の長期下落、それに大規模汚職事件が加わり、国営石油会社ペトロブラスの投資計画が大幅に削減された。「出資の目的であったブラジルでの海洋資源開発関連事業の回復が当分、望めない状況」(IHI幹部)だ。

 日伯の造船分野の協力は、IHIがリオデジャネイロにイシブラス造船所を設立した1950年代にさかのぼる。しかし80年代のハイパーインフレなどを機に関係が薄れ、韓国勢に後れをとった。

 再び巡ってきたチャンスが、世界的な石油・天然ガス需要拡大を背景に浮上した資源開発だ。三菱重工やIHI、川崎重工業などは、ブラジル沖合の大水深海洋構造物に参画することで技術を蓄積しようとした。相次いで合弁を立ち上げたものの、2014年秋からドリルシップ(掘削船)などの代金入金がストップ。事業継続が難しい状況に追い込まれた。

 国土交通省関係者は、日伯の造船協力は「民間支援が主」と話しており、政府間交渉で解決を図るのは難しいとの立場。業界全体でも、日本造船工業会会長で川崎重工社長の村山滋氏は「これ以上の資金投入はまったくない。技術支援を求められればそれに応じて契約するが、代金を受け取らないとできない」と断じる。

 造船・海洋事業の協力はブラジルの産業育成に貢献し、わが国にとっても目に見える形でメリットが生じるはずだった。民間2社の撤退により、ブラジル造船業界との関係維持も困難になる。

 かつてインフレ経済を克服した同国が、リオ五輪などを機に現在の混迷を脱することを期待する。その糸口を見つけられないか、日本政府も考えてほしい。
日刊工業新聞2016年3月24日機械面/「社説」
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
自身の出身部門の航空機や自動車向け過給器など成長事業の手駒はある。課題事業の立て直しへ斎藤会長と役割分担しながら手際の良さを見せて欲しい。

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