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ダイハツ・豊田織機…品質不正で揺らぐ日本のモノづくり現場、問題の本質はどこに潜むのか

ダイハツ・豊田織機…品質不正で揺らぐ日本のモノづくり現場、問題の本質はどこに潜むのか

質問に答える井上雅宏ダイハツ工業次期社長(右)と佐藤恒治トヨタ自動車社長(2024年2月13日撮影)

トップに必要な「工業道徳」

日本のモノづくり現場が揺れている。ダイハツ工業豊田自動織機など、近年日本企業で露呈する品質不正問題は日本ブランドの信用を失墜、モノづくり大国の土台を揺さぶっている。モノづくり現場での不正はとかく、個人のモラル欠如として総括されるケースが多いが、問題の本質はどこに潜むのか―。「経営」のあり方が問われてくる。

※自社作成

「いくら技能があっても、『工業道徳』がなければ優良な工業品を作ることはできない」。世界初のKS鋼開発など「鉄の神様」として知られ、東北大学の第6代総長を務めた本多光太郎。自身が関わった企業の開所式でこう語った。本多は経営者に対して「工業道徳」を求め、「工業道徳に視点を置いて現場を指導すれば上下同心一体となり、良品を安価に製造できる」。経営と現場の結節。両輪がしっかり連結して初めて優れた製品が生まれると説いた。

今、日本のモノづくり現場で何が起こっているのか。現場に対する有形無形の圧力は年々強まるばかりだ。昭和の時代に豊かさをもたらした「規格大量生産」はもはや過去のこと。顧客ニーズの多様化に伴い、多品種少量の製品に対してIoT(モノのインターネット)を駆使しながら大量生産のシステムを適用させる「マス・カスタマイゼーション」が定着している。加えて、リードタイムの短縮、コスト低減、慢性的な人手不足、生産性向上というかけ声の下で必達を迫られる高い目標値。現場サイドにとって一連の問題は不正が起こりやすい条件が幾重にも重なった不幸な出来事であり、結果として不正を誘発してしまった経営サイドの不作為の罪は重い。品質不正は「経営問題」と言っても過言ではない。

13日、都内で開催されたダイハツの会見。次期社長として登壇した井上雅宏は「業務の質と量の拡大の中で、困り事を吸い上げ切れず、課題を残したまま業務執行をさせてしまった」と不正の要因をこう推察した。再発防止報告書などによれば、現場の負担を軽視し無理を重ねた結果と言われている。同席したトヨタ自動車社長の佐藤恒治は、「企業経営はマラソンと一緒。今は少しスピードを落としてまでも体制を立て直す必要がある」。一時的な開発の遅れや生産性低下は覚悟の上で、マネジメントの見直しを優先する意向を示した。

品質不正は経営問題―。企業は何をすべきか。一つが「経営品質」の見直しだ。日本ではなじみがない経営品質という概念だが、その始まりは1980年代の米国。日本やドイツの攻勢を受け国際競争力が低下した米国は両国を徹底的に研究し、こんな結論を見いだす。「企業から見た品質ではなく、『顧客から見た品質』の追求」―。87年には当時の商務長官の名前を冠した「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞」(MB賞)を制定。顧客本位の経営に徹する企業の育成に努め、後の米国産業界の競争力強化につなげた。

※自社作成

日本でも経営品質を広めようと、社会経済生産性本部(現日本生産性本部)を旗振り役に活動を開始。93年にトヨタ自動車やNECを中心とした私的勉強会が始動し、96年には正式に協議会が発足した。当時、事務局員として経営品質協議会を立ち上げた柳本直行は「製品やサービスそのものではなく、質の高い製品やサービスを生み出せる『経営』の質的向上を日本企業に根付かせるのが狙いだった」と振り返る。「日本版MB賞」と言える「日本経営品質賞」が同時に創設され、顕彰事業は現在まで28回を数える。「顧客価値を最優先し経営と現場が一体にならないと、モノづくり現場での頑張りが経営につながらない」。現在、同協議会の事務局長を務める柳本は指摘する。

わが国でCS経営が緒に就いておよそ30余年。今では顧客本位の経営は当たり前とした上で、環境やデジタル、人権などさまざまな対応が迫られるほか、株主資本利益率(ROE)経営など株主向けの経営が勢いを増す。こうしたマネジメントに対する過度な圧力が、モノづくり企業の「かたち」をゆがめ、モノづくり現場に歪(ひず)みを生じさせている。

本多光太郎が唱えた工業道徳の精神。経営とモノづくり現場は常に対話を重ね、一体化しなければ良品は生まれない。戦前に示された本多の視座は今も色あせていない。(敬称略)

日刊工業新聞 2024年02月28日

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