創薬研究を加速化…理研が「細胞応答」AI基盤開発へ、iPSデータで学習
理化学研究所生命機能科学研究センター(BDR)は、薬剤などを与えた際の細胞応答を人工知能(AI)に学ばせた基盤モデルを開発する。人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の細胞を用いて、細胞が変化していくデータを最大で数億件を集めて学習させる。同モデルを使えば薬剤への細胞応答を高精度に予測したり、発現経路を精緻に推定したりすることが可能になり、創薬研究の加速化につながる。2024年度事業として取り組む。
実験ではiPS細胞を分化誘導した細胞を用いる。100種類の細胞に5000種の刺激を与え、経時変化を計測する。細胞数や計測頻度を調整し、数千万件から数億件規模のデータを集める。iPS細胞を使うため、刺激時の状態だけでなく、分化誘導の過程を含めてデータの品質を保証できる。
BDRは一つの細胞の中で発現している遺伝子を計測する技術を有しており、計測速度が速く精度も高いという。生命科学の研究インフラとして細胞培養や高速計測技術があり、AIの研究インフラとしてAI技術やスーパーコンピューターを有する。これら両方を備えている強みを生かし、自前で基盤モデルを開発する。
基盤モデルは複数の目的で使える大規模なAIモデルを指す。AIの学習を通してデータにはない条件も予測できるようになる。海外では3000万件のデータを学習させた基盤モデルが開発されたが、データの範囲が狭いと指摘されていた。BDRは高品質のAIで細胞応答を網羅的に予測できるモデルを開発し、生命科学や創薬研究などに広く提供する。新しい形の研究基盤になる見通しだ。
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日刊工業新聞 2024年02月09日