「アルファ碁」の衝撃。日本のAI研究は大丈夫か。韓国は研究前倒しを決める

グーグルとクロスアポイントメント制度を結ぶしか対抗できない?

囲碁AIとイ・セドル九段㊨の対戦(英ディープマインドがユーチューブに公開した動画)
 囲碁を制覇―。米グーグルの人工知能(AI)が世界最強の棋士を下した。囲碁は最も難しいゲームの一つで、AIが人間に勝つには10年はかかるとされてきた。チェスや将棋に続き、囲碁を攻略したことで盤上はAIが制したと言える。囲碁界とAI、両業界で衝撃が広がっている。

 米グーグル傘下の英グーグル・ディープマインドが開発した囲碁AI「アルファ碁」が韓国のイ・セドル九段を4勝1敗で下した。日本棋院の和田紀夫理事長は「予想を超えた結果」と驚きを隠さない。AI研究者の間でも激震が走った。人工知能学会会長の松原仁公立はこだて未来大学教授は「従来の囲碁AIをあっさりと抜き去り、はるか先に行ってしまった」という。

 囲碁は終局までの手順が10の360乗と天文学的な数になる。すべての手を計算することは不可能だ。計算する範囲をいい打ち筋に絞り込むことが必要だった。アルファ碁はディープラーニング(深層学習)という手法で棋力を飛躍させた。10万以上の棋譜をAIに学習させ、仮想試合を3000万局以上重ねて打ち筋を絞り込む。膨大な計算資源が必要なため普通の研究者には手が届かなかった。

 実は囲碁AIは日本がリードしてきた分野だ。いいアイデアやアルゴリズムがあっても、計算能力が足りずに性能が出ないことが多々あった。松原教授は「知恵を絞るよりも、巨大な計算機で試せばうまくいく。研究者が自分のアイデアを試すために計算資源を求めてグーグルを目指す。この構造をアルファ碁の成功は如実に表している」と指摘する。

 また囲碁以外にも急にAIが人間の能力を上回る仕事は出てくるだろう。深い思慮が必要な仕事でも、ルールがシンプルなら計算機の力で解けることが証明された。

 深層学習は音声や画像の認識では成功していたものの、意味の理解などを伴う記号処理は今ひとつだった。アルファ碁は仮想試合を重ねて盤面の優勢劣勢を理解した。その仕事をシミュレーションできるかどうかがAIに代替される分かれ目になる。

 ディープマインドのデミス・ハサビスCEOは「アルファ碁は囲碁以外にも応用できる汎用的な技術。ヘルスケアなど幅広い分野に展開したい。そのためにオープンな共同研究を進める」と対局後の授賞式で語った。

 チェスの王者がAIに敗れた年、欧州ではチェスから囲碁に競技人口が流れたとされている。日本棋院の和田理事長は「結果にかかわらず囲碁が持つ力や教育効果は変わらない。AIと人間との継続的な連携が経済や生活の豊かさに貢献することを期待する」という。

 囲碁界とAIの協働は、これからAIが台頭する業界の模範となれるのだろうか。今後の動向が注目される。
(文=小寺貴之)

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日刊工業新聞2016年3月18日 ロボット面

COMMENT

日本の囲碁AI研究者にとって屈辱であり、米データ産業への羨望が決定的になりました。知恵やアイデア以上に計算資源が研究成否を決めてしまうのは研究者にとってやりきれません。経産省は産総研と大学とのクロスアポイントメント制度で環境を整えようとしています。それでも「規模が2-3桁違う」(松原教授)ので、本当にどうしたものかと思ってしまいます。対抗するのは難しそうなので、グーグルにクロスアポイントメント制度を結んでもらって、データや計算資源を拝借できればと妄想しますが、送り出した人材の大半が帰ってこなくなるかもしれません。計算機でなく、人間の頭脳で戦える状況にしないとAIの研究は勝てないのだと思います。 (日刊工業新聞社編集局科学技術部・小寺貴之)

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