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最大5億円の大盤振る舞い…JSTのスタートアップ創出基金が動き出す

科学技術振興機構(JST)で総額988億円のスタートアップ創出基金事業が動き出す。1件に最大5億円を提供する大型プロジェクトになる。同事業を通して全国にスタートアップを生み出すエコシステム(協業の生態系)を根付かせる。課題はエコシステムを育てる戦略だ。従来は起業家教育や金融機関との連携構築など、環境を整える基礎的な部分に注力してきた。エコシステム間の競争に勝ち残るための戦略は大学に委ねられている。(小寺貴之)

海外展開へ事業化支援

「大盤振る舞いになる。当然、厳しく審査していく。執行途中で失効する例もあるだろう」と、ケイエスピー(川崎市高津区)の窪田規一社長は語気を強める。JSTの大学発新産業創出基金事業のガバニングボード委員長を務める。同基金事業では988億円を投じて大学発スタートアップなどを支援する。

プログラムは二つだ。一つ目はスタートアップの国際展開を視野に入れて研究開発や事業化を支援する。研究者とベンチャーキャピタル(VC)などの事業化推進機関が組んで応募し、3年間で最大5億円を提供する。起業前の開発に投じる金額としては“大盤振る舞い”になる。

そのためJSTの森本茂雄理事は「研究系予算が切れたから起業系予算で息継ぎするような提案は認められない」と念を押す。従来は科学研究費助成事業(科研費)などの枠を使い果たし、応募できる予算のなくなった研究者が起業系予算に挑戦することが少なくなかった。親しい企業の研究者と事業計画を練ってきたが成功例は少ない。実質的に名義貸しになっていた。研究者と組む事業化機関の本気度を見極められるかどうかがカギになる。

二つ目がエコシステムの形成だ。京都大学名古屋大学、広島大学など、主要な研究大学を主幹機関として地域の大学と連合体を作り、起業家教育や金融機関などとの連携を進めてきた。基金事業では連合体が発掘した研究テーマに支援する。概念実証(PoC)のために500万円、PoC後の技術開発に6000万円程度を提供し起業を促す。100件以上に配ってエコシステムを育てる。

ただ地域間競争は激しくなっている。エコシステム同士の差別化戦略は大学の連合体に委ねる。窪田社長は「人材や設備などの強化すべき要素は分野によって変わる。半導体や人工知能(AI)、バイオなど、どんなエコシステムに育てていくか戦略を求める」と説明する。従来の起業支援施策は分野によらず総花的になっていた。これは各地の大学が規模によらず、全学術分野を備えた総合大学だったためだ。

ビジネスの競争となると足かせとなる面もある。米シリコンバレーはIT、米ボストンはバイオと世界的な成功例でさえ特色がある。総花的な戦略では資源が足りなくなる可能性がある。窪田社長は「988億円はエコシステムを作るには足りない。だが回り始めれば資金は集まってくる」という。勝てるエコシステムを模索していくことになる。

日刊工業新聞 2024年01月15日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
エコシステムは狙って作るものというよりも、いろんなプレイヤーがいろんなことを試みて結果的に生き残っていた協業関係を後から説明しているものが多いです。そのためエコシステムを育てるにはばらまきが必要になります。そして総額も採択件数も多く、どうしてもばらまきに見えてしまう施策でもあります。そのため窪田委員長は「起業数などのKPIを追いかけるのは止めて欲しい」と声を大にして言っています。霞が関もそう言ってくれるのかはわかりませんが、まずはエコシステムのロールモデルを作れればよいそうです。大学のシーズを事業化するのではなく、こんなプレイヤーとシーズが集積しているから、うちでビジネスモデル開発に挑戦すべきと経営者を口説ければいいのですが。本当にそれができたら、スタートアップが大きくなるために人材を求めて東京へ出ていく問題も解決できるかもしれません。基金の大部分は研究開発に当てられるので、地域側のサポートが重要になります。

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