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水素インフラを狙え!鉄鋼各社の開発最前線

低コスト化や新しい製品化の動き広がる
水素インフラを狙え!鉄鋼各社の開発最前線

HRX19で製造したことで配管だけでなく弁や計器類も大幅に小型化できた

 鉄鋼大手が水素ステーションの低コスト化へ素材・機器の開発を着々と進めている。例えば、新日鉄住金は水素配管用に開発した鋼材を計器やバルブなどの素材にまで広げ、配管システム全体を小型化する提案を始めた。16日には経済産業省が水素・燃料電池戦略ロードマップを改訂し、2020年代後半に水素ステーション整備・運営を自立化させる目標を掲げた。鉄鋼大手も鋼材や主要機器の改良、機能向上などでその一端を担う構えだ。(編集委員・大橋修)

鋼材30%削減


 新日鉄住金は既存のステンレスの約2倍の強度を持ち、水素脆化にも強いステンレス鋼「HRX19」の適用範囲を拡大中。フジキン(大阪市北区)や長野計器、ユタカ(東京都大田区)と共同で減圧弁や圧力センサーなどと一体化した配管システムを構築した。同時に、溶接しやすい特性も生かし、継ぎ手をネジ式から溶接に変更した。

 その結果、同じ機能の配管システムと比べ、長さを約20%、高さを約45%、鋼材量では約30%削減することに成功した。強度が高い分、配管だけでなく関連機器も小型化できることが明らかに。逆止弁は内容積を3分の1まで削減した。また、溶接の活用でネジ式の継ぎ手も7カ所から3カ所に減らした。これにより、メンテナンス作業が大幅に楽になるとアピールする。

以前は強度が高い分、配管の肉厚を約40%薄くできる利点を訴求してきたが、「単なる配管の置き換えだけではメリットが少ない。関連部材をつくり、溶接して初めてメリットが出る」(特殊管営業部プラント鋼管室の古口宗樹主査)としてシステム提案を強化。

 鋼材の供給形態も丸棒や薄板・厚板、さらには切削加工や溶接を省ける熱間押出工法による形鋼も加えた。「使用部材が増え、総合的なコスト削減効果も分かってきた」(同)ことで、より詳細なコスト提案も可能になってきたという。

難点は配管の仕様が多岐にわたること


  現時点では岩谷産業や東京ガスなどのステーションを中心に、全体の約半分の施設に採用された。特に「東ガスのステーションの高圧配管ではほぼ100%のシェア」を獲得している。

 ただ、課題は配管の仕様が多岐にわたるため、「一品一様になり、コストがどうしても高くなってしまう」こと。同じ外径の配管でも水素の圧力や流量の微妙な違いによって、肉厚の要求がすべて異なるという。

 政府のロードマップ目標実現へ、新日鉄住金も関連機器メーカーと省サイズ化で貢献しようとしているが、当然限界はある。「早く配管のレギュレーションを統一してほしい」と行政などに強く訴えている。

日刊工業新聞2016年3月17/18日素材面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
 HRX19は加工条件や熱処理条件を最適化して、鋼材の組織をより微細化し、窒素の含有量も増やすことなどで高強度化を実現している。水素ステーション1カ所で1―2トンのステンレス鋼が使用されているが、このうちHRX19は高圧部分に採用され、500キログラム―1トン程度使用される見込み。水素ステーションの建設がなかなか進まない中、適用範囲を広げることは、低コスト化の道。  配管だけでなく、水素を高圧にする圧縮機や熱交換器、冷凍機、蓄圧器など、水素ステーションに関わるビジネスのすそ野は意外と広い。鉄鋼各社ともエンジニアリング部門や関連子会社を持つ。機器をやることで、次の商談を得る取っ掛かりにもなるため、部門間での連携が必要になっているのだろう。

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