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能登地震でデマ拡散…デジタル化進展した時代に我々はどう対応すべきか

能登地震でデマ拡散…デジタル化進展した時代に我々はどう対応すべきか

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能登半島地震の発生直後から、デマ・偽情報が会員制交流サイト(SNS)などを通じて拡散した。被災者を装って救助を求めた悪質な投稿や、東日本大震災の映像を能登半島地震の被災地と装った動画などもあった。救助活動の妨げとなり、被災者にも正確な情報が届かなくなる。悪質な投稿はもとより、事実と思い込んで拡散した第三者の行動も厳に慎みたい。

岸田文雄首相は総務省を通じてプラットフォーム事業者4社に対し、不適切な投稿の削除を念頭に適正な対応を要請した。デマ・偽情報を沈静化させ、難航する捜査救助活動と避難者支援、復旧への歩みを進めたい。

能登半島地震は、輪島市の「朝市通り」周辺の火災が200棟以上に及び、珠洲市では古い木造家屋が数多く倒壊し壊滅的状況にある。確認された死者数が日々増加する中、被災者を逆なでする心ないデマ・偽情報は断じて許すことはできない。

SNS上では閲覧数獲得が目的の投稿も少なくない。実在しない住所や無関係の画像で救助を求めたり、外国人窃盗団出現のデマも流れた。イーロン・マスク氏が2022年に旧ツイッター(現エックス)を買収し、閲覧数に応じて広告収益を分配し始めたことが投稿増加の一因とされる。被災地情報は公共機関などから入手し、偽情報に惑わされないよう努めたい。

23年版「防災白書」では、デジタル化の進展で被災状況の迅速な把握が可能になった一方、SNSなどを通じたデマの拡散に警鐘を鳴らしていた。関東大震災では火災で生じた爆発・飛び火・井戸水の濁りが、朝鮮人による爆弾投てき・放火・投毒だとするデマが広がり、朝鮮人を殺傷する事件が各地で多発。東日本大震災でも中国人窃盗団による略奪などのデマが拡散した。今後は人工知能(AI)で生成したフェイク動画など、新たなリスクにも留意したい。

総務省によると、偽情報を見分ける「自信がない」人は全体の4割を占める。同省は、複数の情報と読み比べたり、情報の発信元を確認するよう注意喚起している。実践してほしい。

日刊工業新聞 2024年01月10日
志田義寧
志田義寧 Shida Yoshiyasu 北陸大学 教授
インターネットの世界では、人々の関心は経済的に大きな価値を持つ。これはアテンション・エコノミーと呼ばれ、コンテンツを供給する側には消費者の関心を引き付けるために、過激なタイトルの記事などを生産するインセンティブが生じる。この結果、現在はピンクスライムサイトやフェイクニュースが生まれやすい状況にある。
こうした時代にわれわれはどう対応すればいいのか。鍵を握るのがクリティカルシンキングだ。クリティカルシンキングは、物事を批判的に捉え、判断する思考法であり、情報を鵜呑みにしないという姿勢が重要となる。前提条件をそのまま受け入れて良いのか、根拠は何か、情報はどのように再構成されているか、隠れている事実はないか、意見と事実の仕分けはできているかなどについて立ち止まって考えることで、誤った見方や解釈を防ぐ。クリティカルシンキングはメディアリテラシーのベースとなる重要な思考法と言える。
しかし、日本のクリティカルシンキング教育は海外と比べて周回遅れの状況にある。OECD国際教員指導環境調査(2018)よると、「批判的に考える必要がある課題を与える」との質問に対して「いつも」または「しばしば」と回答した中学校教員は12.6%にとどまり、参加48カ国平均61.0%に大きな差をつけられている。 全米メディアリテラシー教育協会は、メディアが発する全てのメッセージにはその組織の価値観や視点が含まれていることを理解することが重要だと指摘している。メディアリテラシーで大切なことは、事実は発信者の視点で取捨選択、再構成されていることを認識することだ。それを意識できるようにするのがクリティカルシンキングだが、前述した調査からもわかるように、日本はその教育が決定的に不足している。日本も早急にメディアリテラシー、クリティカルシンキング教育を充実させる必要がある。

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