拡大均衡で「金利のある世界」に、経済成長へ政府がすべきこと
日銀が金融政策を正常化し、「金利のある世界」に向かうかが2024年の日本経済の大きな課題になる。13年に始まった異次元金融緩和は円安・株高を招いた半面、企業は超低金利の“ぬるま湯”に甘んじ、低い生産性の下で現状維持や縮小均衡に傾きがちだった。金利のある世界は企業に拡大均衡への戦略転換を迫り、政府には財政の健全化を促す。企業も政府も金利のある世界への耐性を高める変革が求められると覚悟したい。
日銀は賃金と物価がともに上昇する好循環を確認できれば、短期金利のマイナス金利政策を4月か7月にも解除してゼロ金利政策とし、利上げのタイミンングをうかがうとの見方が有力だ。長期金利もイールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃が視野にあるとみられる。
みずほリサーチ&テクノロジーズによると、2%程度の物価上昇と賃金上昇が定着する好循環が回れば、26年度の短期金利は2・8%程度、長期金利は3・5%程度に上昇する。24年前半にマイナス金利政策とYCCが解除されることが前提だ。
金融政策を正常化するには、まず24年春闘で大企業が意欲的な賃上げに動き、中小企業の賃上げ原資を確保する価格転嫁が進むことが欠かせない。他方、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げを視野に入れ、円高が進みやすい。日銀は政策転換に際し、市場の混乱を最小限に留める慎重さも求められる。
日銀が政策転換により国債の大量購入を見直し、国債費も増額すれば、政府の安易な国債発行が是正されると期待したい。一方で金利のある世界は円高、調達金利上昇、中小企業の倒産増などの痛みも想定される。だが拡大均衡に転じなければ“縮む日本”から脱却できない。小さなパイの分配でなく、パイ自体を大きくする必要がある。
国内政治が混乱する中、日銀は金融市場まで動揺させかねない政策転換に動きにくいのではないか、政権が6月に行う定額減税と政策の整合性が問われるのではなどの指摘もあるが、日銀は客観的なデータに基づいて適切な判断を下してほしい。
経済が成長する要因には資本蓄積、人口成長、技術進歩がある。この中で最も重要なのが技術進歩だ。そのために政府がすべきことは、企業活動の支障になるような規制を緩和することである。生産性の向上を促す環境を整備し、潜在成長率を高める。バラマキ型の政策を改め、財政健全化にも道筋をつける。これが、政府がすべきことだ。
社説にもあるように、この過程では企業の新陳代謝が避けられず、必ず痛みが伴う。しかし、新陳代謝なくして成長はありえない。新陳代謝で労働の流動化が進めば、賃金の調整メカニズムが働くようになり、それは持続的な賃金上昇にもつながるはずだ。