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障がい者の職場活躍後押しで存在感…筑波技術大学の唯一無二

障がい者の職場活躍後押しで存在感…筑波技術大学の唯一無二

聴覚障がい学生向け授業で教員は手話を交える

雇用促進セミ・就業体験開催、入社後も高定着率

視覚・聴覚の障がいを持つ学生が対象の国立大学、筑波技術大学が存在感を高めている。情報技術の進化で、職場などにおける障がい者と健常者の協業がしやすくなってきたことが大きい。障がい者の法定雇用率引き上げを追い風に、卒業生が職場の働き方改革のリーダーになるケースも目に付く。特色ある大学の人材育成が、社会変革の中で力を発揮する好例といえそうだ。(編集委員・山本佳世子)

筑波技術大学は職業人として自立するため機械、保健、情報など技術系の専門を学ぶ大学だ。プログラミング言語の点字や、形を把握する点図ディスプレーといった特殊な支援ツールが用意され、学びやすい環境にあることが、一般大学での障がい者受け入れと異なる。特に情報系は、視覚・聴覚障がいの両学部で力を入れてきた。近年は卒業生の就職先の4割を、情報通信業が占めるまでになっている。

一方、ここ数年で発言などを文字化する音声認識ソフトウエアの精度が格段に向上。コンピューター画面の文面を読み上げるスクリーンリーダーも一般化した。職場も導入しやすくなり、多業種の事務職で障がい者が働くための土台が整ってきた。

ここに障がい者雇用促進法により、企業などが障がい者を一定割合で雇用する法定雇用率の引き上げが重なった。現在、2・3%まで来たが2026年度には2・7%となる。企業が実力のある障がい学生を採用したいと考えるのは当然のことだ。

筑波技大は障がいを持つ職員の働き方サポートも長けている

同大による障がい学生の就職支援は、一般の大学とはかなり違う。障がい者雇用の経験がない企業向けセミナーや、健常者との連携を確かめる2週間の就業体験(インターンシップ)などだ。その結果、入社後の定着率も高いという。

配属は近年、全社のダイバーシティー(多様性)や働き方改革を率いる総務・人事系が多い。顧客対応を含め企業で必要な合理的配慮の思案も、担当者の中に当事者がいれば心強い。

同大の石原保志学長は「本学で学んだ学生は、『こういった配慮をしてもらえれば実施できます』と主張する術を身につけている」と説明する。職場はもはや同質の仲間だけで回る時代ではない。音声の文字表記や座席表作成といった提案は、外国人や育休復帰者にも喜ばれる。ツールを駆使して一般の社員より積極的なコミュニケーションを取るため、職場のリーダーになる例は少なくない。障がい者の気づきが、あらゆる場で生かされる時代になってきている。

日刊工業新聞 2023年12月25日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
知名度が低いと悩む大学は多いのですが、『唯一無二の存在なのに、なんとももったいない』という点で、筑波技術大学は筆頭ではないかと感じます。けれども多様性やインクルーシブ社会という言葉が、効率優先だった産業社会でさえ急浸透する中で、企業が同大に相談を寄せることが増えているそうです。昔、憧れていたクリエイター(純文学の小説家)が、『個性の強い活動は、社会の大勢とともに流行を追うのと異なり、不遇をかこつかもしれない。が、強い芯を持って粘っていれば、時代の波が変わって俄然、存在感が高まる時がやってくる』といっていたことを思い出しました。

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