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成長市場「バイオ医薬品」狙う。協和キリン・中外製薬・アステラス…製薬メーカーが自動化技術

成長市場「バイオ医薬品」狙う。協和キリン・中外製薬・アステラス…製薬メーカーが自動化技術

協和キリンのQタワーの微生物試験ロボット。薄いフィルターをつまむことができる

バイオ医薬品の開発や生産の効率化に向け、製薬企業が自動化技術の導入を進めている。医薬品の世界市場が堅調に拡大する中、特に今後の成長が期待されているのがバイオ医薬品だ。2030年には世界市場が約26億8000万ドルに達するとの見方もあり、製薬企業の開発はバイオ医薬品が主流となっている。治療法が限られていた疾患の新たな選択肢として広く利用できる一方、製造が難しく製造価格も高いという課題を克服し、未来につなげるためにも、各社は抗体や細胞といった新たなモダリティー(治療手段)に対応した設備を整え自社の創薬力を強化する。(安川結野)

協和キリン/高崎に品質保証棟 140億円投じ年内稼働

協和キリンはバイオ医薬品の生産拠点である高崎工場(群馬県高崎市)に140億円を投じ、品質保証関連複合棟「Qタワー」を設置した。抗体の旺盛な需要や開発を支える施設として24年にも本格稼働を予定しており、最先端の分析設備やロボットを活用した自動化技術により品質保証の業務を効率化する。

協和キリンのQタワー

Qタワーはバイオ医薬品の製品・原料の分析など品質管理と品質保証に関連する業務を行うための施設で、日米欧の医薬品製造品質管理基準(GMP)に準拠した設備を持つ。例えば、注射薬などに使われる水の品質を確かめる微生物試験の作業をするロボットは、水が入った容器のふたを開けたり、検査する水を含んだフィルターを掴んで培地に貼ったりといった多様な作業に対応する。また、培養した菌のコロニー数を人工知能(AI)でカウントする。

担当者は「ロボットは連続業務が可能なことに加え、人が介在しないため精度向上の効果も期待できる」と説明する。現在、微生物試験をするロボットを1台設置しているが、最大3台まで導入するスペースがあるという。追加投資により、さらなる業務効率化も期待できる。

ほかにも、システム部門の技術者が最新のロボットを現場で活用できるか試験を重ねている。自動化技術の導入で人の業務を15%削減し、人的投資へと回していくという。

Qタワーでは現在さまざまな試験を重ねており、順次新たなロボットを実用化していく予定だ。

中外製薬/横浜に創薬拠点 高精度解析を整備

中外製薬は、中外ライフサイエンスパーク横浜(横浜市戸塚区)を23年4月に稼働した。同施設は国内の創薬機能を集約した研究開発拠点で、AIやロボティクスの活用で研究開発の効率を高める狙い。

同社は中期経営計画「TOP I 2030」で、30年には新薬創出の数を21年に比べて倍増する計画を掲げている。山田尚文取締役上席執行役員は「AIで医薬品を設計して開発効率を上げ、また成功確率を高めていくことが目標達成に不可欠だ」と強調する。

同社はこれまでもAIを活用した創薬を進めてきたが、これに加え、国内の製薬企業として初めてクライオ電子顕微鏡を同拠点に導入。たんぱく質や細胞などの高度な解析が可能な設備が整ったことでAIと組み合わせた開発が可能となり、確度の向上が期待される。技術基盤の構築により「これまで年単位で取り組んできた開発が、数週間に短縮する可能性がある」(山田取締役上席執行役員)という。

また同拠点ではオムロンとオムロンサイニックエックス(OSX、東京都文京区)と共同で、実験作業においてロボティクスを活用する「ラボオートメーションシステム」の実証実験を開始。モバイルロボットによる実験サンプルの搬送作業や機器操作、双腕ロボットによるさまざまな実験ツールを用いた操作など、創薬実験の基本動作の構築と検証を行う。ロボットは人がいない夜間などでも創薬研究の実験を継続でき、その分、人はより創造的な活動に時間を使うことが可能となる。技術導入で生産性と創造性の向上につなげ、創薬力強化を狙う。

アステラス/双腕ロボ実証 細胞製造を高度化

眼科領域で細胞医療の研究開発に力を入れるアステラス製薬は、26年にも臨床試験用の細胞製造を自動化する。つくばバイオ研究センター(茨城県つくば市)に導入した双腕ロボット「まほろ」で実証実験を進めており、高い技術が求められる細胞製造で精度の向上に取り組んでいる。細胞製造が自動化できれば作業効率の向上に加え、データを蓄積し、他拠点へ技術の水平展開にもつなげられる。同社はこうした取り組みで、医薬品開発プロセスの大幅な短縮を目指す。
アステラス製薬のまほろは人と同等以上の精度で作業が可能

まほろはロボティック・バイオロジー・インスティテュート(RBI、東京都江東区)などが開発した双腕ロボットで、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などによる医療に使用する細胞の培養や分化ができる。細胞培養には培地を入れたり、培養した細胞を回収したりといった工程で高い技術が求められるが、つくばバイオ研究センターの山口秀人原薬研究所長は「熟練者と同等以上の作業が可能」と自信を見せる。 

製薬企業は抗体や細胞など多様なモダリティーで革新的な医薬品開発に力を入れており、技術や拠点への投資も活発化する。海外のメガファーマ(巨大製薬会社)との開発競争を勝ち抜くには、成功確率の向上や各工程の効率化が不可欠だ。ロボティクスやAI技術を活用した基盤を構築し、自社の開発や生産能力を高めていくことが求められる。

日刊工業新聞 2023年1月1日

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