半導体商社の再編加速…メーカー直販志向響く、勝ち残りの道は?
コロナ禍で先行発注、反動減リスク直面
半導体商社の再編が加速している。菱洋エレクトロとリョーサンは5月、経営統合に関する基本合意書を締結。11月にはマクニカホールディングス(HD)の事業会社が同業のグローセルに対しTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。従来、メーカーが代理店を集約する動きがある上、メーカーの直販志向の高まりなどで商社を取り巻く環境は厳しさを増す。勝ち残りをかけた商社の合従連衡は今後も続きそうだ。(阿部未沙子)
「仕入れ先の意向も要因の一つになったのではないか」―。マクニカHDの事業会社であるマクニカ(横浜市港北区)がグローセルの完全子会社化を目指す動きに対して、業界関係者からこのような声が上がった。「基本的には(メーカーは商社を)まとめていきたい」(半導体商社首脳)という見方もある。
マクニカとグローセルは、ともにルネサスエレクトロニクスの代理店。マクニカは従来、半導体メーカーの米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の代理店だったが、ルネサスがIDTを買収したのと同時期に、グローセルと同じくルネサスの代理店となった。
ルネサスは日立製作所、三菱電機、NECのそれぞれの半導体部門を設立母体としているため、各企業から代理店を引き継いだ経緯がある。こうした背景から代理店の集約を進めており、2月にはRYODEN(旧菱電商事)との販売特約店契約を終了した。
英調査会社オムディアの杉山和弘コンサルティングディレクターは「日本市場での売り上げが大きいメーカーが統合すると、商社に対する影響は大きくなる」と分析。商社を絞り込むことで「在庫管理のしやすさにつながる」とみる。
マクニカによるグローセルの買収以外にも再編の動きはある。NEC系列のリョーサンと、三菱電機系列の菱洋エレクトロは、共同持ち株会社「リョーサン菱洋HD」を設立し、経営統合することで合意。両社は経営統合後の2029年3月期に売上高5000億円の達成を掲げており、実現すれば国内半導体商社の上位集団に入りそうだ。
半導体業界のコンサルティング会社、グロスバーグ(東京都世田谷区)の大山聡代表は「コロナ禍で物流機能がまひしたことを背景に、納期が長い半導体を先行発注する顧客が増え、商社は非常にもうかったといえる」と分析する。商社は需要を先食いした格好で、物流が正常化した現在は反動減のリスクに直面しており、業界再編が加速する一因になったとも解釈できる。実際、上場大手10社の23年度の連結売上高合計は、前年度比3・9%減の約3兆9000億円となる見通しだ。
需要創出力を重要視
商社再編の機運が高まる背景は、仕入れ先の代理店に対する考え方だけではない。仕入れ先が顧客にオンラインを通じて販売する直販も関係している。特に海外メーカーは直販に力を注ぐ傾向がある。例えば米テキサス・インスツルメンツ(TI)は直販傾向が強いと言われ、フィールドアプリケーションエンジニア(FAE)を介さなくても顧客が製品を使えるように、オンライン上で資料を公開している。
オムディアの杉山コンサルティングディレクターは「商社の力が必要な分野は残っている」としつつも「特に汎用品といった手離れのよい製品は、商社が必要なくなっている」と現状を分析。「デマンドクリエーション(需要創出)ができる商社を半導体メーカーは重要視している」とみる。
ほかにも、“物言う株主”からの影響も商社の統合を促す要因となりそうだ。旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)は業界再編に賛成の意向を示している。直近では同社などが菱洋エレクトロとの経営統合を目指すリョーサンの株式を買い増した。
また、マクニカがTOBを予定するグローセルも対象となっており、旧村上ファンド系の南青山不動産(同)などはグローセル株を買い増している状況だ。
M&A環境、国内未熟
日本国内にある半導体商社が上場企業だけでも20社以上存在するという事実も再編が加速する理由の一つだ。23年3月期の売上高ではマクニカHDが1兆円を超え、加賀電子が約6000億円、レスターHDが約4800億円と続く。ただ上場企業のうち大半は数百億―2000億円前後の売上高。大山グロスバーグ代表は中堅規模の商社が上場している理由を「(上場により)顧客からの信用を得たい、という理由もあるのではないか」と推測する。
こうした背景から商社の再編はこれまでも起きてきた。国内では15年にマクニカと富士エレクトロニクスが経営統合し、マクニカ・富士エレHD(現マクニカHD)を設立したほか、19年にはUKCHDとバイテックHDが経営統合してレスターHDが発足した。
ただ再編の歩みは遅く、日本国内の半導体商社のM&A(合併・買収)に関する環境はまだ熟成されていないとの見方もある。日本半導体商社協会(DAFS)の関係者は中堅企業が持つ課題として「オーナー企業が多く、会社を手放すという経営へのマインド(心構え)を持っていない点があるのではないか」と指摘する。「日本の場合は直販が少ないため、中堅企業でも食べていける環境」がある点も影響しているようだ。
海外に目を転じると、米アロー・エレクトロニクスや米アヴネットなど売上高が数兆円規模の大手がひしめくため、国内企業同士が統合しないとグローバルでは生き残れないとの声もある。加えて「(海外の大手半導体商社と比べると)国内半導体商社はM&Aの経験が少ないため、経営統合作業(PMI)は手探りになるかもしれない」(DAFS関係者)という課題もあり、経営統合してもシナジーを発揮できるかは予断を許さない。
だが業界再編が進めば、経済安全保障上の半導体の重要性が増す中で安定供給のカギを握る商社の存在感向上につながる可能性もある。各社の判断が注目される。
【関連記事】 パワー半導体の規模拡大に消極的だった富士電機が攻めに転じたワケ