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楽天モバイルの基地局建設で委託料水増し、巨額の資金環流明るみになった破産劇の教訓

TRAILは運送業界での経験を積んだ代表によって、2014年7月に設立された。貨物運送および倉庫内物流業務を手がけ、業歴は浅いながらも、代表の前職時代からの人脈を生かして受注を獲得。外注を活用して多種多様なものを扱い、19年3月期には年間売上高約9億円を計上していた。

転換期を迎えたのは、翌20年3月期。楽天グループからの受注増を背景に、一般貨物自動車運送事業の許可を受けて車両を導入し、自社配送を行うようになった。とりわけ、楽天モバイルの携帯電話基地局設備の配送受注が急増。楽天の物流倉庫間輸送の受注も堅調に推移し、2022年3月期には約192億円に拡大した。

しかし、当社の急成長の裏で「巨額の資金還流」が行われていたことが、取引先の民事再生をきっかけに明らかとなる。楽天モバイルの基地局建設業務において、客観的にその必要性も合理性もない水増しされた委託料の一部が複数社に還流されていたことが明らかになった。本件に絡んだ関係者は逮捕され、多くのメディアで大きく報じられた。

TRAILはその後、破産手続き開始決定を受けた。その後開催された東京地裁で財産状況を含めた債権者集会では、主な破産要因となった委託料の水増しについて、新たに複数社に対して“実態の伴わない支払い”が行われていたことが明らかとなった。倒産に至るまでの間、累計80億円超の資金が、コンサルティングなどの名目で当社から支払われたことが国税局により認定されたとされる。

ある日突然、これまで通常通り営業を行ってきた会社で不正取引が発覚しても事前に察知することは難しい。ただ、業績拡大の背景として、「実態が伴った取引・金額なのか」「モノとカネの流れは不自然ではないか」などの視点から、一度立ち止まって取引可否を判断することが関係者にとっては必要となるだろう。 (帝国データバンク情報統括部)

日刊工業新聞 2023年12月28日

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