今日でJR福知山線事故から10年―安全対策はどこまで進んだか!?
人口減で鉄道事業の縮小は深刻な問題に。財源や人員配置の工夫が難しい時代へ
25日に福知山線脱線事故から10年を迎える。JR西日本は同事故を踏まえ、安全管理対策を最重視して対策に取り組んできた。脱線事故の防止に限らず、ホームや踏切での事故、自然災害などへの対策にも力を入れ、あらゆる場面で安全な鉄道を目指す。「終わりがない」という安全対策を1歩ずつクリアしようとする取り組みを追った。
JR西日本は2013年策定の「安全考動計画2017」で、死亡事故などの撲滅と12年度比でホームや踏切での事故、輸送障害の大幅減を目標に掲げている。
その中でカギを握るのがリスクの洗い出しだ。業務で感じる設備やルールへの意見を社員が報告する流れが定着。さらに管理者らでリスクの可能性を自ら探索する取り組みも始めている。制限速度を超過する可能性はないか、悪天候で周辺の土砂が崩れないか、などのリスクを発見して対応していく。
人的ミスをいかに防ぐかも課題だ。「ミスは結果であり原因ではない」(斧田博之リスクアセスメント推進課課長)との考えに基づき、ミスの理由を分析。設備の改良や業務環境の改善など、どの形でカバーするのがベストかを判断している。
さらに高い安全レベルを実現させるため、新技術や新設備の開発・導入も進める。連続的な位置情報の照合による速度制限や正確なドアの開閉などを確実にする車両主体のシステム技術の実用化を目指す。ホームの安全対策としてはロープ状の「昇降式ホーム柵」を導入。車両数や扉枚数の異なる列車にも対応できる。従来のスライドドア式の可動式ホーム柵と併用し、利用者が多く転落事故が発生しやすい駅に設置を進める。
第三者認証・検証業務を行うDNV GL(ノルウェー)の評価の導入も決めた。社内での監査は過大評価などが発生しやすいとして、客観的な視点と専門的な助言を求める。管理体制のレベルアップと内部監査の充実につなげる考えだ。
ただ、根本的な解決策となる設備や技術が即時に導入できるとは限らない。設備の経年劣化などで再度リスクが高まる場合もある。「多くの場合はリスクの原因が消えるわけでないと意識し、絶えず見守り続けることが重要だ」(斧田課長)。突き詰めるほど課題が見えてくるのが安全対策。大規模な根本対応と、こまめな対症療法の使い分けで乗り切る必要がある。
<関西大学社会安全学部の安部誠治教授に聞く>
【罰則や労働条件改善に課題】
死者107人を出し、87年のJR発足以降で最悪の鉄道事故となった福知山線脱線事故。関西大学社会安全学部の安部誠治教授(公益事業論)に、10年間で改善された点と今なお残る課題について話を聞いた。
―JR西日本の10年間の対応をどう見ますか。
「全体的な流れはよい方向性にあると評価できる。潜在する危険性の特定、分析、評価をするリスクアセスメント制度を取り入れ、未然に事故を防ぐ姿勢が経営陣や安全担当部署で定着しつつある。ヒューマンエラーに関しては、事故後に安全研究所を作り検証を始めた。乗務員管理の面では事故当時と比べ改善された部分も多い」
―残された課題については。
「いまだ意図的ではないミスも罰則の対象としていることが課題だ。乗務員の労働条件の改善も求められる。大都市圏の運転士には月に8泊前後の宿直勤務があるが、最低でも5時間の睡眠がとれる勤務体制にすべきだ。事故後、乗務員を増やすなどしているが十分ではない」
―重大事故の再発防止対策は徹底しているといえるでしょうか。
「現在では事故後入社の社員が全体の3分の1を占める。事故の体験を風化させないことが重要。また、人口減少による鉄道事業の縮小も深刻だ。収益が減る中、財源配分や人員配置をどのように工夫するか、難しい時代を迎える」
―安部教授は外部評価機関の導入を訴え続けてきました。
「遺族の提言が影響し、JR西は民間の評価機関であるDNV GLの評価導入を決めた。国土交通省の運輸安全マネジメント評価ではカバーできない、経営陣から現場までの一貫した安全管理への取り組みを包括的に評価することが目的。これは画期的な決断と言える。客観的な安全監査を通して、安全対策の強化と意識の継続ができるかを注目したい」
JR西日本は2013年策定の「安全考動計画2017」で、死亡事故などの撲滅と12年度比でホームや踏切での事故、輸送障害の大幅減を目標に掲げている。
その中でカギを握るのがリスクの洗い出しだ。業務で感じる設備やルールへの意見を社員が報告する流れが定着。さらに管理者らでリスクの可能性を自ら探索する取り組みも始めている。制限速度を超過する可能性はないか、悪天候で周辺の土砂が崩れないか、などのリスクを発見して対応していく。
人的ミスをいかに防ぐかも課題だ。「ミスは結果であり原因ではない」(斧田博之リスクアセスメント推進課課長)との考えに基づき、ミスの理由を分析。設備の改良や業務環境の改善など、どの形でカバーするのがベストかを判断している。
さらに高い安全レベルを実現させるため、新技術や新設備の開発・導入も進める。連続的な位置情報の照合による速度制限や正確なドアの開閉などを確実にする車両主体のシステム技術の実用化を目指す。ホームの安全対策としてはロープ状の「昇降式ホーム柵」を導入。車両数や扉枚数の異なる列車にも対応できる。従来のスライドドア式の可動式ホーム柵と併用し、利用者が多く転落事故が発生しやすい駅に設置を進める。
第三者認証・検証業務を行うDNV GL(ノルウェー)の評価の導入も決めた。社内での監査は過大評価などが発生しやすいとして、客観的な視点と専門的な助言を求める。管理体制のレベルアップと内部監査の充実につなげる考えだ。
ただ、根本的な解決策となる設備や技術が即時に導入できるとは限らない。設備の経年劣化などで再度リスクが高まる場合もある。「多くの場合はリスクの原因が消えるわけでないと意識し、絶えず見守り続けることが重要だ」(斧田課長)。突き詰めるほど課題が見えてくるのが安全対策。大規模な根本対応と、こまめな対症療法の使い分けで乗り切る必要がある。
<関西大学社会安全学部の安部誠治教授に聞く>
【罰則や労働条件改善に課題】
死者107人を出し、87年のJR発足以降で最悪の鉄道事故となった福知山線脱線事故。関西大学社会安全学部の安部誠治教授(公益事業論)に、10年間で改善された点と今なお残る課題について話を聞いた。
―JR西日本の10年間の対応をどう見ますか。
「全体的な流れはよい方向性にあると評価できる。潜在する危険性の特定、分析、評価をするリスクアセスメント制度を取り入れ、未然に事故を防ぐ姿勢が経営陣や安全担当部署で定着しつつある。ヒューマンエラーに関しては、事故後に安全研究所を作り検証を始めた。乗務員管理の面では事故当時と比べ改善された部分も多い」
―残された課題については。
「いまだ意図的ではないミスも罰則の対象としていることが課題だ。乗務員の労働条件の改善も求められる。大都市圏の運転士には月に8泊前後の宿直勤務があるが、最低でも5時間の睡眠がとれる勤務体制にすべきだ。事故後、乗務員を増やすなどしているが十分ではない」
―重大事故の再発防止対策は徹底しているといえるでしょうか。
「現在では事故後入社の社員が全体の3分の1を占める。事故の体験を風化させないことが重要。また、人口減少による鉄道事業の縮小も深刻だ。収益が減る中、財源配分や人員配置をどのように工夫するか、難しい時代を迎える」
―安部教授は外部評価機関の導入を訴え続けてきました。
「遺族の提言が影響し、JR西は民間の評価機関であるDNV GLの評価導入を決めた。国土交通省の運輸安全マネジメント評価ではカバーできない、経営陣から現場までの一貫した安全管理への取り組みを包括的に評価することが目的。これは画期的な決断と言える。客観的な安全監査を通して、安全対策の強化と意識の継続ができるかを注目したい」
日刊工業新聞2015年04月24日 列島ネット面