コンクリポンプ車でシェア首位…「特装車」の名門が企業価値向上へ、過去最高の成長投資
特装車の名門、極東開発工業が企業価値向上に挑む。過去最高の成長投資を実施するほか、株主還元や借入金活用など資本効率向上策を相次ぎ打ち出す。社会インフラ整備に不可欠な特装車の内需が回復し、2023年度上期(4―9月)は上期として売上高が過去最高に達した。海外でも収益性の高いインドに工場を新設する。コロナ禍などの危機を乗り越え、日本企業の課題として浮上する生産性と企業価値の向上という難関に立ち向かう。(大阪・田井茂)
【注目】自動化・迅速化で大幅設備投資
極東開発はコロナ禍や半導体不足、さらに日野自動車のエンジン認証不正で特装車の車台となるトラック不足に苦しみ、23年3月期は売上高と営業利益が前期比で減少した。しかし23年3月期は設備投資で前期比2・3倍の118億円を実施。主力車のトレーラー工場や研究開発拠点、インド工場の新設計画も表明した。23年3月期―25年3月期の中期計画は設備投資300億円、M&A(合併・買収)100億円と、中計で過去最高の資金を投じる。
トラック不足が改善した結果、受注残は過去最高の814億円に積み上がっている。23年4―9月期は売上高が過去最高で営業利益も前年同期比3・4倍増。極東開発の特装車は建設や物流、災害復旧、ゴミ収集など社会インフラに欠かせず、重要な供給責任を担う。布原達也社長は果敢な投資の狙いを「これまで納期に十分応えられていなかった。設備の大幅な自動化投資で生産を抜本的に変える」と意欲を示す。
特装車は特注品が多いため生産自動化が難しく、そのうえ納期は年度後半に集中する。こうした事情から効率を上げにくい。比較的標準的な中型リヤダンプトラックから、溶接ロボットなどの導入を推し進め、自動化と迅速化を試みる。トラックメーカーとは生産情報を共有しタイムリーに出荷し、仕掛かりや在庫を減らす考えだ。
コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)強化の流れを受け、株主還元や資本効率にも正面から向き合う。24年3月期は年間配当を4円増配の58円、中計期間は自社株買いも含む総還元性向100%を予定。自社株買いでは22年6月、自己株式を除く発行済み株式総数比率5・0%を上限とする取得計画を決めた。自己資本利益率(ROE)の目標値10%では達成時期を当初の31年3月期から、「早期」へと前倒しした。生産性向上やインドなど新興国で成長がカギとなる。
自己資金が潤沢ながら22年度に100億円借り入れたのも異例。資本を積み上げてきたが、借り入れも増やし資本効率を好転させる。かつてはリーマン・ショック級の危機再来に備え自己資本を増強してきたが、資本効率を優先する株主目線と両立可能な財務戦略に転じる。
【展開】海外売上高比率倍増、20%に
極東開発の歴史は日本海軍の傑作機「紫電改」を生んだ川西航空機にさかのぼる。川西航空機は現在の新明和工業。川西航空機が戦後にダンプトラックの生産を始め、極東開発の前身となる特装車メーカーを設立した。新明和も独自に特装車製造を続け、後に極東開発が独立する形で互いに競合メーカーとなった。
新明和は航空機関連や航空旅客搭乗橋、産業機械など幅広く手がける。極東開発と新明和は特装車、ゴミ処理の環境施設、駐車場施設で競合する。ダンプトラックとゴミ収集車は新明和がトップで、極東開発が2位。一方で極東開発は高シェアのコンクリートポンプ車やトレーラーなどで首位。同じ特装車でも得意な車種が異なる。極東開発は環境施設関連事業も強み。設備だけでなく収益性の高い運営まで手がけるため、営業利益率が15%を超える受注もある。
極東開発の価値向上には、売上高の約85%を占める特装車事業の利益率改善が最優先の課題となる。かつてない規模の自動化投資に踏み切り生産効率化と生産性向上を目指す。
ただ国内市場は成熟し、規模拡大も容易でない。そこで注力するのが、インドをはじめ成長著しい新興国市場。インドネシア事業はインド事業よりも利益率が高い。両国にはすでに現地企業のM&Aなどで進出し、大型ダンプやトレーラー、タンクローリーの販売を伸ばしている。
「海外売上高比率は約10%だが、両国を合わせた営業利益は23年4―9月に特装車全体の半分強を稼いだ」(布原社長)。インドでは23年6月、新工場を建設する投資覚書をタミル・ナドゥ州と交わした。新工場で供給力を強め海外売上高比率を長期には20%へ倍増したい考えだ。
極東開発は投資会社のストラテジックキャピタル(SC)とその運用ファンドが、21年から主要株主となったことが判明した。SCは22年と23年の株主総会で株主提案権を行使した。主な提案は定款変更を含む資本コスト開示、配当性向100%、不動産や政策保有株式などの売却、自己株式消却、取締役と従業員への株価条件型報酬・賞与などだが、いずれも否決された。
一方で極東開発は独自に配当性向拡大や自社株買いと消却、政策保有株式の縮減を実施し、資金調達に伴う資本コストも推定で初めて開示した。株式市場との対話を企業価値や透明性の向上に反映させる考えだ。SCはほかにも多くの企業に対し株主提案権を行使している。
【論点】社長・布原達也氏「ROE10%へ全社一丸」
―業績が急回復しています。
「復調しているものの利益はまだまだ付いてきていない。原材料高騰を受け値上げしたが、値上げ分を計上するまでに時間がかかる。受注残はこの半年でさらに積み上がった。自動化やトラックメーカーとの密な情報共有で生産台数を増やし、顧客へ適時に供給したい」
―受注が増えるのはなぜですか。
「国内の普通トラック市場は14年度から年間5万―9万台で推移し、そのうち特装車は約20%。当社の特装車は減らない。老朽インフラの建て替えや人手不足で建設工事がなくならず、特装車の更新需要が続くからではないか」
―株主還元や資本効率を求める要請が市場から強まっています。
「利益を稼ぎ企業価値を上げ、それを再び投資に充て10―20年先をみて成長したい。ただ株価が低かったので、なんとかしなければならないと思っていた。株主と対話し、自己株式取得・消却や政策保有株式縮減、借り入れや資本コスト開示、貸借対照表をみながらの資本政策などに反映してきた」
―株価純資産倍率(PBR)やROEの現状認識は。
「PBRは(12月7日時点で)0・63。1年前まで0・5程度だったが、配当を増やし自己株式取得などもしたので改善してきた。資本コストも下がり始め、期待されていると感じる。ROEも10%にたどり着くよう全社一丸で努力したい」
―SCとの対話で相違点はありますか。
「しっかりコミュニケーションを取っており、学ぶことも多い。短期に株価を上げるか、それとも長い目で見て上げるかを除けば、互いに企業価値を高めようということで違いはないと考える」
―利益分配を検討するに当たり、「会社は誰のものか」という問いに突き当たると思います。どう認識していますか。
「社会のものだと考える。社会に貢献して利益を配分するべきであり株主に報いるが、まず従業員を大切にしたい。そうでないと人材を確保できない。従業員には賃金や持ち株制度なども含め、分配できるよう努める。株主にも従業員にもバランスよく還元して成長投資するのが、これからの課題になる」