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金属技研の“材料低減”最前線 半導体からエネルギー、航空宇宙まで

左から
ジミー・ボビン氏 [MTCパウダーソリューションズ セールス&マーケティングマネージャー]
トーマス・バーグランド氏 [MTCパウダーソリューションズ R&Dマネージャー]
張 ゲツ瑶氏 [金属技研 営業本部]
佐々木 颯翼氏 [金属技研 姫路工場 技術課技術係 主任]
増尾 大慈氏 [金属技研 技術開発本部テクニカルセクション 課長]

持続可能な開発目標(SDGs)、脱炭素化、環境負荷低減に製造業が担う役割は大きい。半導体からエネルギー、航空宇宙まで幅広い分野で活躍する金属技研(MTC、東京都中野区、畑中秀夫社長)は、環境負荷低減にダイレクトにつながる「材料低減」に力を入れる。同社営業本部の張ゲツ瑶氏をファシリテーターに、技術開発本部テクニカルセクションの増尾大慈課長、姫路工場技術課技術係の佐々木颯翼主任、スウェーデンの子会社であるMTCパウダーソリューションズ(MTC-PS)のトーマス・バーグランドR&Dマネージャー、ジミー・ボビンセールス&マーケティングマネージャーに最新の取り組みを聞いた。

 まずは自己紹介から。私はMTCの営業本部に所属して2年目です。主に海外営業を担当しています。 

ボビン 私は営業およびマーケティングのマネージャーで、MTC-PSで5年以上働いています。機械工学を専攻し、以前はノルウェーのエネルギーセクターでエンジニアリングおよび営業の両方の分野で働いていました。

バーグランド MTC-PSのR&Dマネージャーで、勤続11年以上になります。さまざまな技術、役割を担ってきましたが、メインは熱間等方圧加圧(HIP)の技術者です。HIPは当社に来る前にも少し携わっていました。

増尾 MTCに入ったのは2007年で勤続16年になります。金属積層造形(3Dプリンター)のエンジニアとしては10年たちました。HIPなどさまざまな技術をうまく組み合わせてお客さまに提案しています。今日はよろしくお願いいたします。

佐々木 2015年入社で9年目です。入社以来、技術関係の仕事をしています。主に今は、HIPを使ったニアネットシェイプ(NNS)部品の製造などをしています。特に最近は、MTC-PSとも頻繁にやりとりしています。よろしくお願いします。

NNSとは

HIPを活用し、あらゆる業界により良い製品を届ける

 MTC-PSの事業や強みを教えてください。

ボビン MTC-PSは世界で初めてHIPを使ったNNSを実用化した会社で、30年以上にわたり製品や材料を提供し続けています。MTC-PSの事業領域は、核融合、大型研究施設、原子力といった基幹産業からの高い需要により拡大しています。

 MTC-PSはNNSのの事業化に成功しましたね。グループ全体のコア技術であるHIPについて佐々木さんからご説明をお願いします。

佐々木 HIPは製品を高温・高圧で加圧・加熱して処理することで、粉末を焼結という形で焼き固めて、内部欠陥や強度的に弱い部分がない 材料密度100%を一体で達成する技術です。また、鋳造部品などの内部欠陥の除去や、異種材料を接合した特殊な材料を作ることができます。それにより、顧客製品に付加価値をつけ、品質を高めることが可能です。

コスト、材料、イノベーションに変革をもたらすNNS

 続いてNNSの説明をお願いします。

佐々木 金属の塊を加工して削り出すことなく、粉末を最終形状に近い状態で成型して焼き固め、密度100%の材料を作ります。既存工法と比較すると、あとの加工や仕上げを少なくすることができるため、コストやリスクの低減や、納期短縮が可能になります。また、材料低減といった強みも生まれます。日本の実績では一体の削り出しに比べ、NNSは約30-40%の材料低減効果がありました。

ボビン NNSには大事なポイントが三つあります。まず一つ目は環境負荷の低減。佐々木さんが挙げたとおりです。作りたい製品の形により近い材料を作れるため、使用する材料を減らし、環境負荷の軽減につながります。

二つ目は一体成型の強み。例えば鍛造品のような従来技術で大きな部品を作る場合、さまざまな部品を組み合わせるために多くの箇所で溶接が必要になります。 NNSでは複雑な形状であっても一体で製造できるため、溶接部分を減らすことができます。溶接がない分、重要部品の損傷リスクが減るため、よく使われています。

三つ目は、異なる種類の材料を組み合わせて使えることです。同じ部品でも箇所によって、違う材料特性を必要とすることは多いですが、従来の製造技術では、単一材料しか選択できず、その部分ではお客様は妥協せざるを得ませんでした。これでは残念ながら、部品の性能が低下する可能性がありました。一方NNS では、さまざまな材料を必要な特性に合わせて組み合わせることができます。そのため、同じ部品のあらゆる箇所の材料選択に妥協をする必要がなくなります。これで部品の性能を向上させることができます。例えば、ある箇所では高い耐食性の材料が、また違う箇所では高い耐摩耗性材料が求められる場合、NNS を使用して両方の材料を組み合わせることで、部品の長寿命化が達成できたりします。

バーグランド 他にも重要な要素がありますね。例えば、均一性。鍛造部品をテスト切断してみると、物性の異なる箇所が見られます。それに対してNNS-HIPは、材料が100%等方、つまり部品全体で材料特性が均一になります。 

佐々木 HIPを使うと、鍛造より均一性の高い材料が作れますね。

バーグランド 極めて綺麗な粉末を使うので異物や欠陥が入らず、高品質で機能が安定する点も、お客様にとって重要です。

ボビン NNSで製造された部品は長寿命が実現できるため、例えば、オイル&ガス産業で海底に敷設されるため交換困難なものや、原子力プラントで使われる重要な配管のように、部品が常に完全であることが求められるような場面で、NNSの技術が選ばれることが多いです。

バーグランド また、いままで鍛造で扱える材料には限界がありました。HIPでは粉末を使うので、従来の製造技術では使用することができない新素材を製造することもできます。

佐々木 近年は大きな部品が増えています。大きい部品になればなるほど、不良などの作り直しのコストが嵩むのでNNSが優位です。

 NNSの良い点を示す事例を紹介してください。

ボビン ヨーロッパの大型研究施設に納めているエンドキャップという70センチメートルの部品があります。様々なノズルがあり、昔は溶接で部品同士をつなぐことで製作をしていましたが、NNSだと一体成型できます。高真空向け製品のため、従来の溶接ではヘリウムリークテストに合格することが難しく、リスクでした。溶接が増えれば増えるほど危険性が上がりますが、これを全てNNSで作ることで溶接リスクを抑え、均一、高品質化できました。現時点で、世界最大級の研究施設で約20年動いています。

ものづくりのイノベーション: NNSと金属積層造形は進化を続ける

 MTCは日本でも早くから金属積層造形に取り組んでいます。最新の実績や成果を教えてください。

増尾 我々が金属積層造形を本格的に始めたのは2013年から。国内ではおそらく1番古く、今も継続している企業は多くありません。お客様のジャンルもさまざまなメーカー、業界にわたります。宇宙業界や液晶半導体業界、エネルギー分野のお客様の引き合いが増えています。また、試作というより、量産や高品質といった点を要求されるお客様の割合がだいぶ増えました。

そもそもNNSとは、成形したあと多くの加工を必要とせず、完成品に近い形に作る工法を指します。HIPを使った粉末焼結のNNSに加え、金属積層造形も完成品に近い形に作るという点で、NNSの一つと言えます。ただ金属積層造形は装置サイズの関係から比較的サイズが小さいものしかできません。材料に内部欠陥や強度的に弱い部分があってはいけない大型部品はNNS、小型品には金属積層造形を選択することができます。

 互いの良い点を組み合わせようということですね。

ボビン 私も同じ考えです。この2つの技術は相補的なものだと考えています。NNS-HIPは、材料の完全性が不可欠な重要な大型部品に、金属積層造形は、非常に複雑な形状の小型部品に使用できます。

今後のさらなる成長に向けて: NNSと金属積層造形をスタンダードに

 MTCとMTC-PSの両社で何かを作り上げる戦略や構想があれば教えてください。

佐々木 MTC-PSはNNSのカプセルを作る高い技術を持っています。一方、姫路工場にはGiga-HIPという世界最大のHIP装置があります。欧州でHIPができない3メートル、4メートル級の案件の場合、MTC-PSでカプセルに粉末を入れて送ってもらい、姫路工場でHIPするということは日常的にやっています。当然、他の技術を使うなどそれ以外の協力も、社内では進めています。

Giga-HIP1

 さらに成長するための課題を教えてください。

ボビン 一番大きな課題は、お客さまにHIPについて知ってもらうことです。HIPは新しい技術ではないですが、どう使うか、どういう利益があるかが十分に理解されていません。私は営業マンとしてお客様に製造方法、使える材料などを伝えています。最近、金属積層造形も人気があるので、それにNNSも引っ張られています。鍛造と鋳造でできる限界を超える次の手段として金属積層造形とHIPがあります。ただ、NNSの利点をすべて活かすためには、設計段階からそれを踏まえることが重要になってきます。

バーグランド 一部業界では現時点で規格がないことも課題になっています。規格がないため、規格が確立している鍛造に対して遅れをとっています。

AM製作複雑流路

増尾 NNSとHIP、金属積層造形には得意不得意があるので、うまく組み合わせればもっと可能性は広がると思います。作っているメーカーも少ないですし、みんなが作れる規格が用意されていないのが現状です。ただ、最近は使いたいというお客様が増えてきました。規格を作るスピード上げる必要があります。現在、金属積層造形の規格化に向けて取り組んでいます。NNSが一緒になれば、さらに需要が増えるかもしれないですね。今年は金属積層造形とNNSの営業活動を行うつもりです。

 技術の融合でビジネスチャンスも広がります。

増尾 最近のお客様はより大きな金属積層造形部品を求めていますが、是非いろいろなお手伝いをしたいと考えています。金属積層造形だとコストバランスが合わない時に、NNSに切り替えるためには「こんな部品だったらやりとりできるよ」ということを国内で知ってもらわないといけません。認知が進めば、大きな仕事が増えてくるのではないでしょうか。

 夢が膨らみますね。本日はどうもありがとうございました。

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