グーグル囲碁AI「4勝1敗」は人類の敗北か。プロ棋士から見た勝負の評価

「50代は逃げ切れる。20代は柔軟に動ける。僕たち30-40代はどつぼにはまっている」

 米グーグルの人工知能(AI)が5戦4勝で、囲碁のトップ棋士を下した。対戦したのは米グーグル傘下の英グーグル・ディープマインドが開発した囲碁AI「アルファ碁」と韓国のイ・セドル九段。初めの3戦はアルファ碁が圧勝。第4戦はイ九段の妙手にアルファ碁が悪手を重ねて自滅した。第5戦は280手に渡った接戦をアルファ碁が制した。

 イ・セドル九段は中国の柯潔(カケツ)九段と双璧をなす世界最強の一人。対戦前は「AIは一勝もできない」など、イ九段優勢の見方が多かったが、結果はアルファ碁の勝利。日本棋院の和田紀夫理事長は「予想を超えた結果に驚いている」という。

「人類は追いつけるのだろうか。自分の思い過ごしであってほしい」


 井山裕太六冠(棋聖・名人・本因坊・王座・天元・碁聖)は、「アルファ碁の実力には大変驚かされた。セドル九段は長い囲碁界の歴史の中でも上位にくる棋士であることは間違いない。そのセドル九段に勝ち越したのは大変なこと」と評価する。

 アルファ碁がイ九段を圧倒する場面では、観戦する棋士から「セドル九段相手に指導碁を打っているようだ」とため息が漏れたほどだ。第4戦でイ九段が一矢報いるまで「アルファ碁の強さの底が見えない」と悲鳴にも似た声が上がっていた。

 囲碁AIに詳しい大橋拓文六段は「アルファ碁は従来の囲碁AIとは別次元。1局目より2局目、2局目より3局目と強くなっていように見えた。このスピードで進化するなら人類は追いつけるのだろうか。自分の思い過ごしであってほしい」という。

人間が上回っている部分があることを証明


 ただ、アルファ碁は第4戦で悪手を重ね、第5戦でも悪手はあった。完璧というわけではない。井山六冠は「セドル九段が第4戦で1勝を返したことは大変意義深い。この一局で勝てない相手ではないこと、人間が上回っている部分があることを証明してくれた。セドル九段に敬意を表したい」と健闘をたたえる。

 「形勢判断の正確さなど、アルファ碁の優れた部分もあるが、人間のほうが優れた部分もあると感じた。この五番勝負でどちらが上ということはまだ言えない」という。

 観戦する棋士が「アルファ碁の意図がわからない」と理解に苦しんだ打ち筋が、後で好手とわかったこともある。人工知能学会会長の松原仁公立はこだて未来大学教授は「アルファ碁は学習した棋譜以上の手を打った。AIが新手を創造した」と指摘する。
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日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
03月16日
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囲碁の面白さや思考力を養う効果は変わりません。その上で今回の囲碁AIは技術革新失業の参考になります。これまで急にAIが人間を超える知的活動はあまりありませんでした。人間の計算職は、そろばん→機械式計算器→電子計算機→電卓→表計算ソフトと段階的に移行してきました。職業は変えずに仕事の中身を入れ替える時間がありました。従来の囲碁AIはアマチュアレベルで、プロ棋士といい関係を築いてきました。急に世界最強の人間が負けるとアイデンティティが揺らぎます。取材した棋士の「50代は逃げ切れる。20代は柔軟に動ける。僕たち30-40代はどつぼにはまっている」という声が耳から離れません。対局の面白さや指導力は、強さや憧れの上にあるものです。デザイナーやライターにとっても目の前に迫っていることだと思います。囲碁界はAIをどう飼い慣らしていくのか注目です。(日刊工業新聞社編集局科学技術部・小寺貴之)

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