トヨタの真骨頂、TPS実践を事技系社員にも促す、カギ握る「道場」の正体
トヨタ自動車が事務や技術を担う「事技系社員」にもトヨタ生産方式(TPS)の実践を促している。生産現場だけでなくオフィスで働く人を含め、あらゆる業務においてTPSの考え方に基づいた改善を推し進める。そのカギとなるのが事技系社員向け研修「TPS道場」だ。全事技系社員の3分の1である1万人が受講済み。残り2万人も早期にTPSを学ぶ機会を創出する。仕事を変革し、原価低減や生産性向上、人材育成など競争力強化につなげる。(名古屋・川口拓洋)
「『TPS』と『原価低減』はトヨタの真骨頂」。2018年3月期の決算説明会でトヨタの強みについてこう話したのは、当時社長だった豊田章男会長だ。TPSはつくり過ぎや動作、運搬、不良などのムダをなくし、高い品質とスピードでモノや情報を顧客・後工程に提供するための方法。トヨタでは「トヨタに関わる全員が身に付けなくてはならない作法」と位置付けている。
TPSの教育は製造を担う生産本部中心の側面が強かったが、これを見直し、21年から事技系社員にもTPSを活用した業務活動の改善を強化している。事技系TPS推進部を立ち上げ、仕事の業務を継続的に改善する「自主研」と、TPSの考え方を社員で共有する「道場」を開講している。
道場では座学だけでなく社員一人ひとりが自ら考え、手を動かすプログラムを用意。例えば「ジャスト・イン・タイム」を学ぶ講座では、車の模型を製作する。まずは20工程ある手順書通りに製作。製作までの時間を計りながら、より製作が早い仲間のやり方を共有する。また、1人ではなく複数人で「600秒で12個作る」などの課題にチームで対応。50秒に1個の納品を想定するが、最適なタイミングで最適な量を作るにはどうすれば良いかアイデアを出し合い、模型を作りながら実践する。起きている現象を確認し、自らの行動を見直し、自分の職場に当てはめて改善を続ける人材を育成することに主眼を置く。
実際、事技系社員による改善の成功事例が多数出てきている。株主総会における人流最適化もその一つ。改善前は株主総会の会場が混雑し、複数ある会場を株主がたらい回しされることや、参加者の車両が一般道をふさぎ渋滞が発生するなど多数の問題が生じていた。これを株主の来場タイミングを過去の実績から算出したり、議決権行使書の色を変更したり、添付したバーコードによる自動受け付けにしたりするなど改善を重ね、株主からも評価される会場運営を実現した。
道場が開設してまだ2年だが、効果は確実に表れている。トヨタでは「事技系にもTPSが浸透し始めている」と認識する。改善が改善を呼ぶ好循環を生み出し、事業基盤をさらに強固にする。
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