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“論文とツールの谷”を埋める、物材機構がデータ駆動型でチーム

技術者・研究者で推進

物質・材料研究機構(物材機構)はデータ駆動型研究を広げるためにエンジニアチームを立ち上げている。情報と材料の研究者同士の共同研究は、双方の先端領域でないと成り立たない。学術論文として認められないためだ。一方で人工知能(AI)ツールなどの成熟・普及には時間がかかる。この“論文とツールの谷”を埋める役割をエンジニアチームが担う。研究者と同格でエンジニアを雇用し、コアファシリティー(研究基盤)に位置付ける。

「データ駆動の事例が積み上がり、研究手法として広がろうとしている。ただ研究者に相談が集まり、手が回らなくなった。これをエンジニアチームで引き受ける」と物材機構技術開発・共用部門の出村雅彦部門長は説明する。データ駆動はAIやデータ科学を駆使する研究手法だ。これまでは材料と情報の研究者の共同研究で進められてきた。電池や磁石、熱電材料、構造材料など、各分野で成果が上がり、普及期に入ろうとしている。

だが融合研究に挑戦してきた数少ない研究者に相談が殺到し、研究者は手いっぱいになっている。論文にはなったが、ツールとしては未成熟の研究手法を新規参入者が使いこなせるようにする―。これがデータ駆動の普及に向けた課題だ。

そこでデータ解析などを引き受けるエンジニアチームを組織し、人材採用を進める。エンジニアだが自ら研究もする。実験データに合わせてAIモデルを調整したり、解析手法を組み合わせたりと開発の要素が大きい。新しい知見を論文化する能力も求められる。そのため研究者と同格としてエンジニアを雇用している。

従来、アカデミアにおける技術職は研究者に仕える研究支援者の位置付けだった。研究機関のコアファシリティーが研究装置から人材に移行し、専門性がこれまで以上に求められる。「エンジニアのスキルや経験が共同研究を集める競争力になる」(出村部門長)。

データ駆動普及の利点は、仮説の妥当性を定量的に扱えるようになることだ。科学では往々にして複雑な現象に対するデータが不足し、正解がわからない。すると説得力のある仮説が暫定的に支持される。声の大きな研究者の仮説が通ることもある。

だがデータ駆動型で複数の仮説を定量的に評価可能になった。その時点で最も妥当な仮説が決まり、仮説から性能を予測できる。出村部門長は「材料開発が加速する」と力を込める。(小寺貴之)

日刊工業新聞 2023年11月01日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
AI解析技術を誰でも使えるAIツールに落とし込むのに小さくない開発コストがかかります。これを材料研究者が担うと研究が進みません。AI研究者が担うこともなかなか難しいです。バグ取りやメンテナンスができなくて、ジャンクが積み上がっていきます。この問題は大学発ベンチャーなどに譲るとして、中途半端なAI解析技術を組み合わせて研究を進めるシステムインテグレーターのような存在が必要になります。それぞれの技術の成熟度を見極めながら、研究で使えるレベルまで引き上げる。次の研究では同じ苦労は繰り返さない。こんな専門人材が必要です。こうした仕事はネイチャーやサイエンスなどの一流誌には載らなくても、その分野の専門誌では評価されます。大学であれば教育系の予算で教員を雇って、演習科目を運営しながら知見を蓄えていくことになるのだと思います。

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