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AI・ロボも迷う…“我が家の冷蔵庫問題”が解けたら値千金な理由

AI・ロボも迷う…“我が家の冷蔵庫問題”が解けたら値千金な理由

ロボを困らせる冷蔵庫(中央の食べかけヨーグルトの後ろにプリンがある。パッケージのがたつきから食べかけを推定してどかす必要がある)

人工知能(AI)技術の大規模言語モデル(LLM)や視覚言語モデル(VLM)など、巨大な基盤モデルを駆使したロボット研究が進んでいる。課題はあるものの、対話やコード生成が技術的に解かれるのは時間の問題と目される。この刈り取りは着実に進めるとして、ロボット研究者は次の10年でどんな研究をすべきか模索が始まっている。身近な課題として“我が家の冷蔵庫問題”がある。極めて高度で解けたら値千金だ。(小寺貴之)

「AIの適用が認識から動作計画に広がった。制御に用いる研究も進んでいる」と東京大学の河原塚健人特任助教は説明する。画像で物体を認識するだけでなく、マップ生成や報酬生成などで抽象的な状況認識が可能になりつつある。そこから「ぬいぐるみを片付けるなら、子ども部屋のオモチャ箱」などと、LLMに含まれる常識を使った行動計画やシミュレーションデータを学習させたアーム制御など、AIの適用が広がっている。

ロボット研究者にとってブレークスルーであると同時に「ロボット向けの基盤モデル構築の知見を持つ機関はごく一部」(東大松嶋達也特任研究員)という課題がある。基盤モデルを応用する研究を進めつつ、次のロボット研究とは何か模索が始まっている。

ここで“我が家の冷蔵庫問題”があらためて注目されている。一般家庭の冷蔵庫は多様な食品が限界まで詰め込まれている。例えば「プリン取って。お父さんの食べかけヨーグルトの後ろにあるから」というタスクでは、食べかけのヨーグルトの認識、後ろに隠れた物体配置の推定、避ける動作の計画、それでも見つからなかった時のリカバリーなど、認識や計画、制御の一連の機能の統合が求められる。慶応義塾大学の杉浦孔明教授は「隠れた物など、見えていない物体は認識できない。今後10年で解かれる課題」と指摘する。

ロボを困らせる冷凍庫(収納効率を優先するため商品パッケージが分からない)

冷凍庫に至ってはピロー包装の側面や袋とじ面が向く形で緻密に詰め込まれている。視点を変えても商品の正面は見えないため画像認識は困難だ。ピロー包装を破らないように取り出し戻す力制御も必要になる。東大の河原塚特任助教は「AIの問題ではない。ハードウエアが追いついていない」と指摘する。

トヨタ自動車未来創成センターの森健光グループ長は「冷蔵庫は衣食住の食のキーパーツ。生活支援ロボにとって切り離せない」と指摘する。その上で「冷蔵庫問題が解けるなら工場のバラ積みピッキングは簡単。要素技術は産業応用されるだろう」と説明する。

基盤モデルでロボットの課題の小さくない領域は解かれるが、ハードウエアやセンサーなどの原点に立ち返ると解けない問題は山ほどある。そして力触覚データなどを混ぜて基盤モデルに学習させると柔らかな制御が実現されるかもしれない。同時に基盤モデルが生成するコードの品質管理や計算コストなど、新たな課題も生まれている。AIの進展を踏まえたロボットの再設計が求められている。

日刊工業新聞 2023年11月27日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
日常のカオスが一番難しいと、アニメーターでなくロボット研究者から教わりました。我が家の冷蔵庫問題は20年は生き残る研究テーマだと思います。ロボット研究を始める学生さん向けに要素技術やタスクを分解して整理するといいかもしれません。冷蔵庫を使った経験のある人は多く、脳内でシミュレーション実験できるので共有しやすいです。市民参加型の技術開発とも相性がいいはずです。電子レンジにカメラを付けるとターンテーブルで食品の画像を集めるデータ生成ポイントになりえます。冷蔵庫だと生鮮食品の家庭内在庫も計測できます。データを売るということもできるかもしれません。同様に、カメラ付きマジックハンドでひたすら冷蔵庫から食品を取り出し、収めるデータを集めて基盤モデルに学習させたらロボットが冷蔵庫を扱えるようにならないのかなと思います。もしできたら店舗で商品を並べる仕事は楽勝かもしれません。冷凍庫ができたら工場でのバラ積みは楽勝だそうです。冷蔵庫かどうかはおいといて、アマゾンピッキングチャレンジからそろそろ10年なので誰かが競技会を仕掛けるんじゃないかと思います。

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