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低温プラズマは作物栽培に効く!?、名古屋大が農業技術で効果確認

低温プラズマは作物栽培に効く!?、名古屋大が農業技術で効果確認

水田に植えた苗の成長点を刺激するようにプラズマ装置で直接照射

プラズマ技術でスマート農業を加速―。名古屋大学低温プラズマ科学研究センターの堀勝特任教授、橋爪博司特任講師らはプラズマ技術とICT(情報通信技術)を組み合わせた農業技術の開発に挑む。水稲栽培で低温プラズマ処理を行ったところ、栽培が難しいとされる酒米品種「山田錦」で収量、品質の向上を新たに確認した。低温プラズマが多様な作物栽培に有効と期待し、持続可能な食料生産への貢献を目指す。(名古屋・鈴木俊彦)

プラズマは固体、液体、気体に続く物質の第4の状態といわれる。大気圧低温プラズマ(低温プラズマ)生成の実現により、半導体など産業分野で用途が拡大。生体へのプラズマ処理も可能となり、医療、農業分野などで応用の期待が高まる。

名大は低温プラズマ研究で半世紀を超える歴史を持つ。同センターは低温プラズマ技術の研究で世界をリードすると自負。微生物の殺菌、がん細胞を選択的に殺傷するプラズマ活性化乳酸リンゲル液(PAL)の発明などの実績を重ねている。

プラズマ技術の知見を生かした応用研究として、先進農業技術の開発について「ICTを融合した作物栽培を制御可能にするシステム構築を目指す。大きな過渡期を迎えた日本の農業のスマート化が急務だ」(橋爪特任講師)と指摘する。

同センターは2018年から富士通クライアントコンピューティング(川崎市幸区)と共同研究を推進。実験室にとどまらず、実際の水稲栽培での実証試験を通じて気象、降水量、生育、収量などのデータを収集し、コンピューティング技術を活用して先進農業システムを構築する。

酒米品種「山田錦」の実証試験では心白米の割合が増加した(米粒の中心部の白い部分が心白)
試作した装置を用いた低温プラズマ

水稲栽培での実証試験は、水田に植えた幼苗に低温プラズマを直接照射する方法とPALに浸漬する間接処理の二つの方法で実施。食用米品種を用いた実証からは玄米収量が15%まで増加したほか、穂が出てから発育・肥大する登熟の促進が見られ、収穫量と品質で良好な結果を得た。

酒米品種「山田錦」を用いた試験は、苗の成長点を刺激するように直接照射する方法と、苗を囲むように設置した円筒管内でPALに浸漬する2種類の方法で栽培。直接照射の場合、1週間に2回のペースで30秒間、3分間、5分間と照射時間を変えた苗を比較したところ、30秒間照射した苗は収量が約8%増加した。

酒米の中心部に見られる白濁部分で、麹菌との反応を円滑にするために日本酒製造で必須とされる「心白」の割合も増え、品質の向上も確認した。生育への作用についてはプラズマ照射による活性酸素、活性窒素が細胞を刺激していると推測。最適な照射の量など条件設定がカギという。

実証試験は愛知県東郷町にある名大の試験水田で行ってきたが、24年には実際に稲作を行っている水田を使い実施する計画。高品質な食料の安定生産の実現を通じて「SDGs達成に向けて大きな前進が期待できる。遅くとも3年後には実用化したい」(同)と研究に力が入る。

日刊工業新聞 2023年11月06日

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