住友商事・三井物産…先端技術で地域防災、総合商社が事業創出力で商機生む
大手商社で先端技術を地域防災に活用する取り組みが広がっている。住友商事は災害時の最適な避難経路の抽出に量子技術を使う検討を九州電力と開始した。三井物産はスマートフォンの位置情報に基づく人流データを災害復旧の計画策定などに生かすサービスをKDDIと進めている。グローバル市場で競う総合商社の事業創出力は、自然災害の増加を背景に地域社会でもニーズが高まりそうだ。(編集委員・田中明夫)
住友商事は、50を超える自治体などと街づくりの連携協定を締結する九州電力と共同で、災害被害の抑制に量子技術を活用する検討を始めた。膨大な組み合わせの中から最適解を抽出できる量子技術を使い、最適な避難経路を導き出すことで「道路混雑などによる避難の遅れを防ぐことができる」(住友商事)とみる。
住友商事はこれまで、投資会社を通じてイスラエルの量子技術関連スタートアップのクラシックに出資するなどして、同技術の用途開拓を図ってきた。将来的にはアプリケーションを使って、住民が位置情報や道路情報を反映した最適な避難経路を把握できる仕組みの提供も目指す。
三井物産はKDDIとの共同出資会社GEOTRA(ジオトラ、東京都千代田区)を通じて、街づくり向けにスマホの位置情報に基づく人流データの解析サービスを提供。ジオトラと清水建設は2018年に豪雨災害に見舞われた広島県呉市で、日常の交通量データを活用し、災害時に優先して復旧させる道路を検証する作業を支援する。「国内で自然災害の影響が大きくなる中でシミュレーションのニーズが出てきている」(陣内寛大ジオトラ社長)とする。
総合商社の事業創出力を地域社会のインフラ形成に生かすケースは広がっている。地域創生を中期経営計画の柱の一つに掲げる三菱商事は、次世代半導体会社のラピダス(東京都千代田区)が進出する北海道千歳市と連携協定を締結。産業振興と再生可能エネルギーの供給などを通じた脱炭素が両立する街づくりを進めている。
技術の進化と社会課題を背景に、自然災害への対応や脱炭素、デジタル化の推進などを通じた街づくりが地域振興に寄与する可能性は高まっている。総合商社の産業ネットワークを生かした事業創出力は、地域社会でも商機を生みそうだ。