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日本を救う手立てになる!?…「デジタルノマド」とは何か

日本を救う手立てになる!?…「デジタルノマド」とは何か

コワーキングスペースで仕事をするデジタルノマドたち。

世界各国でデジタルノマドビザが発給スタート

「デジタルノマド」(Digital Nomad)という言葉を知っているだろうか?

ノマドとは、フランス語が語源で“遊牧民”を意味する。年配層の中には貧しい流浪の民を想像する向きも多いが、現代のノマドはそうではない。ITを中心としたプロフェッショナルなワーカーが多く、知的で洗練されている。Wi-fiが完備されている場所で自分のパソコンさえあれば、世界各国を移動して暮らし、働くことが可能だ。彼らは移動した先々で、他のデジタルノマドとのコミュニティを大切にする新しいタイプのボヘミアンでもある。

最近では「ワーケーション」という言葉が定着したが、これの進化系と考えてもいいかもしれない。単に仕事と休日を合体させるワーケーションとは違い、生き方そのものが新しいスタイルだからだ。

デジタルノマドの増加と経済的な効果を見据え、チェコ、エストニア、ドイツ、アイスランド、スペイン、インドネシア、タイなどがデジタルノマドのためのビザを発給(類似ビザを含む)。また、韓国が2023年12月には発給を開始する予定だ。日本でもデジタルノマドビザの導入に向けた制度整備が進行中である。そのさなか、10月1日から10月31日まで、福岡県福岡市で「COLIVE FUKUOKA」(福岡で共に暮らす)が開催されており、24か国・地域50人以上のデジタルノマドが来福。タイトル通り、彼らは食住を共にし、共に移動し、共に議論を戦わせ、そして地元民とも交流する様々なイベントに参加している。

(cap)「COLIVE FUKUOKA」プログラムの中で日本語を学ぶデジタルノマド。

COLIVE FUKUOKAを先導するのはベテランデジタルノマド

この「COLIVE FUKUOKA」のコンセプトを立案・企画、海外からのノマドワーカーの集客支援、数々のイベントを運営しているのが株式会社 遊行。代表取締役・大瀬良 亮氏は筑波大学を卒業後、電通、内閣官房出向を経て、KabuK Styleの共同創業者となる。同社で旅のサブスクリプションサービス「HafH」(ハフ)を立ち上げ、マーケティングやブランディングを担当した。

株式会社遊行 代表取締役の大瀬良 亮氏。

大瀬良氏もまたデジタルノマドであり、その暮らしのスタイルは彼の人生をも変える。「HafHがスタートアップとして急成長していく半面、私自身が影響を受けたデジタルノマドの暮らし方に、より深く関わりたいと思ったのです。ハイスピードで走り続ける従来のスタートアップとは違う、これからの企業の成長方法を模索していきたいと決断しました」(大瀬良氏・以下同)

そこで、日本初のデジタルノマド市場に特化したマーケティングファームとして、昨年遊行を立ち上げた。あらゆる場所でデジタルノマドの可能性を語っていた矢先、福岡の案件が舞い込み、遊行は転機を迎える。さらに大瀬良氏は長崎県出身ということもあり、同じ九州の福岡で開催される「COLIVE FUKUOKA」には並々ならぬ思いを抱く。

「今回プログラムに参加した人たちは、主に世界各地で開催されているデジタルノマドのイベントやコミュニティ内で出会いました。日本の独自の文化や風習に尊敬の念を持ち、マナーもきちんと守る素敵な人々です」

10月5日に開催された「ワールドワーケーションカンファレンス@福岡」でも積極的に発言するデジタルノマド。
 

デジタルノマドにとっての福岡の魅力とは?

さて、デジタルノマドにとって、福岡は様々な面でメリットがある。まずは地の利。

「デジタルノマドはヨーロッパ系の人が多いので、主に西からやって来る人が多いのです。彼らは大体韓国と日本をセットで訪れます。福岡空港は韓国の仁川国際空港からすぐ。LCCなら5000円台ほどの飛行機代で来ることができます。仁川から成田に行くより福岡の方がずっと便利ですし、さらに福岡空港から市内中心地へのアクセスも抜群にいいのです」

実際にCOLIVE FUKUOKAの参加者の中には、何人か韓国経由で来日したワーカーがいた。

韓国でCOLIVEを営む女性も来福。

そして受け入れ側の態勢だ。

「もともと福岡は、昔から韓国や中国との交易で栄えてきた歴史があるので、外国人を受けいれる態勢ができています。たとえば大名という繁華街では、韓国人観光客がとても多いので、店のおじさんたちがビジネスとして韓国語を操っています。外から来る者に対して寛容なのが良いところ。そこが福岡の大きなポテンシャルだと思います」

可処分所得が高く、一か所の滞在期間が長いデジタルノマド

デジタルノマドが日本全体にもたらすメリットは大きいだろう。日本デジタルノマド協会が集めたデータによると、日本での希望の滞在期間は「1か月以上」が最も多くて80%、平均生活費は日本円で23万円、昼食のコストは1900円、デジタルノマドの平均月収(税引き前)は日本円にして78万円。日本人の平均月収の倍以上だ。※出典:国税庁民間実態統計調査結果

つまり比較的高収入で滞在期間が長めのワーカーが多い上、彼らは冒頭の通りプロフェッショナルなスキルを持っているので、来訪した国の雇用を奪う心配も少ない。もちろん今後来日するすべてのデジタルノマドがそうとは言い切れないが、COLIVE FUKUOKAに集結したノマドワーカーは相当に意識が高い。たとえばイベントの一つとして、日本の深刻な空き家問題について話し合う機会があり、彼らはとても興味を持ったようだ。日本の法整備さえ進めば、自分たちが空き家を活用し、廃れゆく地域に貢献できる可能性もあるのではないか、そのためにはスピード感を持って具体的な提言をしようという意見も出た。空き家活用が彼らにとって心地よいコミュニティづくりの基盤となるならば、具現化する可能性も少なくない。

福岡の人々とも交流するデジタルノマド。
 

東アジアでデジタルノマド専用の協定ができる日が来る?

さらに大瀬良氏はデジタルノマドと日本の未来についてこう語る。

「人口減少、少子高齢化を社会問題として抱える日本にとって、経済効果、イノベーションの促進、地域の活性化など、デジタルノマドの存在は大きな可能性を秘めています。デジタルノマドビザの制度化が日本で整備されていくなか、単なる外国人観光客や労働者とは異なるアプローチで、社会課題解決の糸口となっていくのではないでしょうか」

さらにはヨーロッパのシェンゲン協定のような結びつきが、東アジアにもできるのではないかとも。

「ヨーロッパの人にデジタルノマドが多いのは、シェンゲン協定のおかげでEU内を自由に往来でき、通貨もユーロで統一されていることも大きな理由でしょう。アジアでこのような結びつきは難しいと言われていますが、決してそうではありません。日本、韓国、台湾など東アジアの国々は、地理的にも文化的にも近く、生活様式も似ています。東アジアでもデジタルノマド専用のシェンゲン協定等ができることでさらなる強みが生まれ、日本をはじめ東アジアの国に経済的にも社会的にもいい影響を与えてくれると期待しています」

「ワールドワーケーションカンファレンス@福岡」で、熱い思いを語る大瀬良氏。

ビジョンだけで終わらせないためにも、COLIVE FUKUOKAがもたらした成果を次のステップに引き継がせないといけない。それが大瀬良氏率いる遊行の、今後のミッションとなるだろう。

日本はいまだバブル崩壊後の経済低迷から脱却できずにいる。俗にいう“失われた30年”はこのままでは40年にもなりかねない。日本を救う一つの手立てになりうるデジタルノマドの動向に引き続き注目したい。(ライター=東野りか)

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