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船のDXで実現する「無人運航」への挑戦、自動車だけではない自動化の流れ

<情報工場 「読学」のススメ#120>『決して止まらない船』(小田 雅人 著)
船のDXで実現する「無人運航」への挑戦、自動車だけではない自動化の流れ

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船舶でも進む「無人化」の取り組み

自動運転」と聞いて、まず思い浮かべるのは自動車だろう。マイカーもさることながら、トラックやバスといった商用車では、少子高齢化や「2024年問題」によるドライバー不足の解消、事故防止などの観点から、自動運転車両による隊列走行などの実証実験が行われている。

もっとも、人手不足解消や事故防止の観点から自動化や無人化が進められているのは「陸運」だけではない。貨物や旅客の海上輸送を担うコンテナ船やフェリーといった船舶、すなわち「海運」も同様だ。「自動運航」が実現に近づいているのだ。

船舶の自動運航は、自動車ほど注目度が高くないこともあってその詳細を知る機会は少ないのだが、『決して止まらない船』(ダイヤモンド・ビジネス企画)で、その最前線を垣間見ることができる。著者の小田雅人さんは、日本の海事産業の中心地・愛知県今治市に本社を置く舶用電機・電子機器メーカーBEMAC代表取締役社長だ。

日本で実現した世界初の無人運航実証

自動車の自動運転には、センサーや制御装置、システム、通信技術などさまざまな部品や技術が求められる。当然ながら船舶の自動運航も同じだ。だからこそ多くの企業が技術を持ち寄る必要がある。

国内では2020年から、日本財団が無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」を進めている。2025年までに無人運航船を実用化、2040年までに50%の船を無人運航船にすることを目指すプロジェクトだ。数十社が参画して5つの共同企業体(コンソーシアム)を結成し、無人運航監視や遠隔操船、水陸両用無人運転技術の開発、小型観光船の無人化など、それぞれの実証実験を進めている。

小田社長率いるBEMACはこれらのコンソーシアムのうち、輻輳海域での無人運航をめざすDFFAS(Designing the Future of Full Autonomous Ship)に参画している。陸から遠隔で運航管理するシステムなどを提供した。このコンソーシアムには、同社のほか民間の気象情報会社や通信会社、海上運送業者、保険会社、電気機器メーカーなど多種多様な国内企業約30社が参画しており、いわば、オープンイノベーション体制で開発が進められたようだ。

『決して止まらない船』には、2022年2月26日から3月1日にかけて行われた、DFFASによる実証実験の様子がリポートされている。コンテナ船「すざく」と陸上支援センターを用い、世界一の輻輳海域ともいわれる東京港と、津松阪港の間を無人運航で往復(往復約790km)したものだ。これは、世界初の、輻輳海域における無人運航実証の成功例となった。

本で触れられているのはここまでだが、その後、今年7月に日本財団から「MEGURI2040」第2ステージが発表されている。このステージでDFFASは、BEMACを含む国内51社が参加する「DFFAS+」として、国内の海上運送を担う次世代船の設計のほか、自動運航技術の国際規格化や、社会実装に向けたルールの整備などを進めていくという。

自動車の自動運転の社会実装にあたっては、国際規格化やルールの整備、また社会的受容などの課題が指摘されている。船舶も同様、これらの課題をクリアしていく必要があるといえるだろう。

船舶のDXで日本の海事産業を牽引

さて、BEMACでは、「MEGURI2040」への参画とは別に、「MaSSA(The Maintenance System for Soundness Sailing Ability:決して止まらない船)」というコンセプトを掲げ、23年3月現在19社のパートナーと共に船のDX化を進めている。

現在の日本の海事産業には、多くの課題がある。過酷な労働環境や高齢化などからくる人手不足、温室効果ガスの排出量削減、日本の競争力の低下などだ。こうした課題を、船のDX化によって解決しようという考え方が、「MaSSA」の背景にある。

「MaSSA」は3段階を想定しており、現在リリースしている第1段階「MaSSA-One」では、機関、航海、荷役など、船舶に関するあらゆる情報をデータサーバーが収集。船の機器トラブル発生に際し、海運業者や舶用メーカーなどにトラブルに関するデータを自動送信できる。専用のアプリケーションを使えば、陸上から船舶の様子を把握することも可能だ。今後、第2段階では、異なるメーカーの機器を統合するシステムを開発。最終段階では陸上からの操船のみという「無人運航」を可能にしたいと、小田社長は意気込む。

BEMACは、もとは、1946年に小田社長の祖父・茂さんが立ち上げた「渦潮電機商会」で、集魚灯の蓄電池の充電事業からスタートしたという。舶用配電盤など電気艤装に手を広げ、新来島どっく(旧来島船渠)や今治造船などの電気艤装を手掛けて成長。父・道人司さんの2代目で、舶用のエンジン、プロペラ、レーダー等、機器全般の製造や工事を行うようになった。

2006年に38歳で社長に就いた小田社長は、市場がグローバルに広がるなかで、海外での知名度を高めるためにブランド名や社名を「BEMAC」と改めた。従業員数はいまや1000名を超え、船舶の電気設備関連の仕事をワンストップで担うほか、AIによって船のトラブルを未然に防ぐ機器やアプリケーションの開発など、船のDX化の最前線を担う企業となっている。

日本の海事産業といえば、「高度成長期の花形」といった過去のイメージを持ちがちだ。しかし、電動化やデジタル化、通信技術等の発展を経て、現在も日本企業が確実に世界最先端の技術を維持していることに勇気づけられる。日本の海事産業が今後、自動運航で世界に存在感を示すことに期待したい。(文=情報工場「SERENDIP」編集部 前田真織)

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『決して止まらない船』-船舶DXソリューション「MaSSA」のすべて
小田 雅人 著
ダイヤモンド・ビジネス企画
224p 1,760円(税込)
吉川清史
吉川清史 Yoshikawa Kiyoshi 情報工場 チーフエディター
本書でBEMAC小田社長は、MEGURI2040の「先」に考えられるものの一つとして、AIやメタバースのクルーによる自律運航の可能性にも言及している。現在実証が進められている無人運航は、陸上のオペレーションルームでのモニタリングやトラブル対応を前提にしているが、将来はメタバースのクルーが「乗船」し、AIの判断のもとトラブル対応をするなど、「人」がほとんど介在しない自律運航になるかもしれないという。メタバースについては、期待されたよりも普及が進んでおらず、足踏み状態の感があるが、ゲームや「SNSの代替」よりも、こういった実務に活かせる使用法が広がる方が、もしかすると早いのかもしれない。

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