三菱電機、鉄道車両用SiCインバーターを海外へ
国内の鉄道事業者には採用実績増える
三菱電機は次世代半導体材料の炭化ケイ素(SiC)を全面的に使った鉄道車両用インバーターを拡販する。今夏にも国内の鉄道事業者に対し、7社程度への採用を見込む。また東南アジアなど海外での販売に着手し、1年内にも初受注を見込む。SiCを使ったインバーターは電力損失を大幅に減らせる利点があり、同社は他社に先駆けて開発した。省エネニーズの高い日本や、電力網に乏しいアジアで訴求する。
電気の流れを制御するパワー半導体の素子のトランジスタとダイオードにSiCを使い、「フルSiCパワー半導体」としてインバーターに搭載した。モーターと組み合わせ、動力源である主回路システムとして顧客に提案する。
2014年に小田急電鉄に初めて採用されて以降、これまでにJR東日本と西武鉄道にも納入した。このほか近く2―3社が導入する見通しで、今夏にも累計で10社程度が採用し運用を始めるという。消費電力を従来に比べて40%低減できる効果を確認しており、高い省エネ性を訴求して今後も受注を積み上げる方針だ。
一方、海外の新興国でも電力不足の観点からニーズは高いとみている。東南アジアやインドなどでは電力需要が旺盛だが、供給力が不足し鉄道運行にも支障を来している。すでに、ダイオードだけをSiCにしたハイブリッド型インバーターは、12年に海外で販売実績が出ている。
より少ない電力で運行できれば、電力不足の状況でも遅延や運休の防止につながる。主回路システムを組み込む鉄道車両メーカーに提案し、1―2年内に初受注を目指す。
SiCを全面採用した半導体はシリコンに比べて低損失特性を持ちながら大電流運転が可能で、装置全体の体積も4割低減できる。インバーターに組み込むことで、電気エネルギーを回収できる回生ブレーキの回生率を改善できるほか、モーターの損失も抑えられる。これによって、消費電力を大幅に削減できる。
三菱電機は25日、ダイオードとトランジスタにSiC(炭化ケイ素)を使う「フルSiCパワー半導体」を搭載した鉄道車両向けインバーター(電力変換装置)を製品化したと発表した。フルSiCの実用化は業界で初めて。
すでに国内の複数の鉄道事業者などに受注が内定しているという。地下鉄などの都市鉄道だけでなく新幹線など大容量装置などにも適用可能。今回開発したのは直流1500ボルト架線対応のパワーモジュール。適用範囲は容量で最大5000キロワット、電圧で3000ボルト以上。交流車両の新幹線にも対応できるよう開発を進めている。
同社はダイオードにSiC、トランジスタにシリコンを使ったハイブリッド型のパワー半導体を搭載したインバーターをすでに実用化。ハイブリッド型に比べさらに約3割ほど省エネルギー化が可能という。
「1年以内に他社に絶対に勝つ製品を開発しろ!」―。2010年に社長に就任した山西健一郎は、各事業部門にげきを飛ばした。名付けられたのが「Vプロジェクト」。全社から五つほどの案件が選ばれた。
おととしの10月初旬、伊丹製作所に緊張の空気が漂っていた。国内外の鉄道事業者や車両メーカー20社以上の幹部を招待し、電力損失を減らせるSiC(炭化ケイ素)製パワー半導体を使った省エネ型インバーター(電力変換装置)と誘導モーターを組み合わせた実証試験を披露するのだ。
この製品こそVプロジェクトの一つ。鉄道電気品を製造する伊丹、パワー半導体を生産するパワーデバイス製作所、先端技術総合研究所から約50人が集められた。リーダーに指名されたのは、伊丹製作所で車両システム部長をしていた武知秀行。先にお客さんへ公開する日取りが決められ、そこから逆算して開発スケジュールが組まれた。
武知は20年以上、鉄道機器の設計などに携わってきたが半導体に関しては門外漢。「1年もない中でデバイスもシステムも完成していない状態。同時並行で開発しながら最後に仕上げるのはリスクがあった」と振り返る。幸運だったのは、研究所が同じ伊丹地区にあり、SiCの生産ラインもぎりぎりまで所内に設置され意思疎通がしやすかったこと。
披露会での反応は上々。鉄道事業者へ直接商談が進み、東京メトロやウクライナの地下鉄をはじめ国内外に100台超のインバーターを納入した。実際の走行で約3割の省エネ効果があるデータも出ているが、SiCはまだコストが高い。中長期でみると顧客の電気代や保守費用は減るが、調達の慣習もあり他社製の高効率同期モーターを採用するケースもある。
4月に伊丹製作所所長に昇格した武知。今はダイオードとトランジスタで構成する「フルSiC」の実用化を社内連携で急いでいる。一方、半導体部門は鉄道用SiCの外販を始めた。武知は「採用されたかどうかは、顧客との守秘義務があるので聞かない」という。内販と外販のバランスを損なうとデバイス事業、コンポーネント事業双方に影響が出かねない。
(敬称略)
※内容、肩書きは当時のもの
電気の流れを制御するパワー半導体の素子のトランジスタとダイオードにSiCを使い、「フルSiCパワー半導体」としてインバーターに搭載した。モーターと組み合わせ、動力源である主回路システムとして顧客に提案する。
2014年に小田急電鉄に初めて採用されて以降、これまでにJR東日本と西武鉄道にも納入した。このほか近く2―3社が導入する見通しで、今夏にも累計で10社程度が採用し運用を始めるという。消費電力を従来に比べて40%低減できる効果を確認しており、高い省エネ性を訴求して今後も受注を積み上げる方針だ。
一方、海外の新興国でも電力不足の観点からニーズは高いとみている。東南アジアやインドなどでは電力需要が旺盛だが、供給力が不足し鉄道運行にも支障を来している。すでに、ダイオードだけをSiCにしたハイブリッド型インバーターは、12年に海外で販売実績が出ている。
より少ない電力で運行できれば、電力不足の状況でも遅延や運休の防止につながる。主回路システムを組み込む鉄道車両メーカーに提案し、1―2年内に初受注を目指す。
SiCを全面採用した半導体はシリコンに比べて低損失特性を持ちながら大電流運転が可能で、装置全体の体積も4割低減できる。インバーターに組み込むことで、電気エネルギーを回収できる回生ブレーキの回生率を改善できるほか、モーターの損失も抑えられる。これによって、消費電力を大幅に削減できる。
鉄道用インバーター、業界初のフルSiC
日刊工業新聞2013年12月26日
三菱電機は25日、ダイオードとトランジスタにSiC(炭化ケイ素)を使う「フルSiCパワー半導体」を搭載した鉄道車両向けインバーター(電力変換装置)を製品化したと発表した。フルSiCの実用化は業界で初めて。
すでに国内の複数の鉄道事業者などに受注が内定しているという。地下鉄などの都市鉄道だけでなく新幹線など大容量装置などにも適用可能。今回開発したのは直流1500ボルト架線対応のパワーモジュール。適用範囲は容量で最大5000キロワット、電圧で3000ボルト以上。交流車両の新幹線にも対応できるよう開発を進めている。
同社はダイオードにSiC、トランジスタにシリコンを使ったハイブリッド型のパワー半導体を搭載したインバーターをすでに実用化。ハイブリッド型に比べさらに約3割ほど省エネルギー化が可能という。
「1年厳命」必勝プロジェクト
日刊工業新聞2013年10月24日
「1年以内に他社に絶対に勝つ製品を開発しろ!」―。2010年に社長に就任した山西健一郎は、各事業部門にげきを飛ばした。名付けられたのが「Vプロジェクト」。全社から五つほどの案件が選ばれた。
おととしの10月初旬、伊丹製作所に緊張の空気が漂っていた。国内外の鉄道事業者や車両メーカー20社以上の幹部を招待し、電力損失を減らせるSiC(炭化ケイ素)製パワー半導体を使った省エネ型インバーター(電力変換装置)と誘導モーターを組み合わせた実証試験を披露するのだ。
この製品こそVプロジェクトの一つ。鉄道電気品を製造する伊丹、パワー半導体を生産するパワーデバイス製作所、先端技術総合研究所から約50人が集められた。リーダーに指名されたのは、伊丹製作所で車両システム部長をしていた武知秀行。先にお客さんへ公開する日取りが決められ、そこから逆算して開発スケジュールが組まれた。
武知は20年以上、鉄道機器の設計などに携わってきたが半導体に関しては門外漢。「1年もない中でデバイスもシステムも完成していない状態。同時並行で開発しながら最後に仕上げるのはリスクがあった」と振り返る。幸運だったのは、研究所が同じ伊丹地区にあり、SiCの生産ラインもぎりぎりまで所内に設置され意思疎通がしやすかったこと。
披露会での反応は上々。鉄道事業者へ直接商談が進み、東京メトロやウクライナの地下鉄をはじめ国内外に100台超のインバーターを納入した。実際の走行で約3割の省エネ効果があるデータも出ているが、SiCはまだコストが高い。中長期でみると顧客の電気代や保守費用は減るが、調達の慣習もあり他社製の高効率同期モーターを採用するケースもある。
4月に伊丹製作所所長に昇格した武知。今はダイオードとトランジスタで構成する「フルSiC」の実用化を社内連携で急いでいる。一方、半導体部門は鉄道用SiCの外販を始めた。武知は「採用されたかどうかは、顧客との守秘義務があるので聞かない」という。内販と外販のバランスを損なうとデバイス事業、コンポーネント事業双方に影響が出かねない。
(敬称略)
※内容、肩書きは当時のもの
日刊工業新聞2016年3月8日 電機・電子部品