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東芝子会社の売却先に内定したキヤノン。医療機器のポテンシャルは

メーンターゲットは遺伝子。診断用試薬から装置の製品化も
東芝子会社の売却先に内定したキヤノン。医療機器のポテンシャルは

製品化を検討する遺伝子診断システムのモデル

 「次の5年で医療事業は巨大なビジネスになる」―。昨年9月9―11日に米ニューヨークで開かれた自社展示会の最後、キヤノンUSA(ニューヨーク州)の足達洋六会長は現地社員の前で、こう力を込めた。日米欧で事業の権限を分散させる全社構想の中、同社が担うのが医療事業だ。

 事業のメーンターゲットは遺伝子。大きな一歩となったのが、遺伝子診断用試薬の販売開始だ。2016年をめどに、診断装置の製品化も視野に入れる。まず試薬を製品化した狙いについて、医療事業を統括するキヤノンバイオメディカル(同)の田中朗子社長は「ようやく世に出始めた分野で、まだ遺伝子をどう使うか模索している段階。顧客のニーズを聞きながら、じっくり装置の事業化を進める」と説明する。

 もともと光学・精密技術は医療機器との親和性が高く、古くからカメラメーカー各社が参入し存在感を示している。内視鏡を手がけるオリンパスやX線画像診断システムなどを手がけるコニカミノルタ、富士フイルムなどが代表的だ。最近ではソニーやニコンも同分野を強化している。

「医療」は多角化企業への象徴


 キヤノンも70年以上前から医療機器を手がけ、今もX線デジタル撮影装置や眼底カメラを販売している。ただこれらは従来のカメラ事業の延長。これから伸ばそうとする遺伝子分野は、材料など光学以外の領域も組み合わせ市場を開拓する、本当の意味での新規事業だ。御手洗冨士夫会長兼社長兼最高経営責任者は「遺伝子の分野は時間がかかるが、成長事業だ」と繰り返す。

 同社の新規事業には苦い歴史がある。パソコン、表面電界ディスプレー(SED)テレビ、光磁気ディスク―。どれも赤字に陥り撤退を余儀なくされた。これらの事業撤退を断行してきた御手洗会長の言葉からは、遺伝子市場拡大への期待もあるが、時間をかけても確実にものにする覚悟がうかがえる。

 従来の新規事業の立ち上げで指摘されていたスピード不足も、積極的なM&A(合併・買収)で補う。田中社長は「世界本社にする前提で、人材や仕組みなど地盤をしっかりと作りたい」と前を見据える。

 医療事業への取り組みは、真の多角化企業への挑戦を象徴しているとも言える。キヤノンが成長への次なる一歩を踏み出した。

ロボット関連に参入、内視鏡・補助具で


 キヤノンは医療用ロボット分野の参入に向けた検討を始める。5年以内に、ロボット技術を搭載した器具の製品化を目指す。さらに2016年から19年にかけて、直径0・6ミリメートルの内視鏡や、治療や検査に使う針を臓器に高精度に刺すための補助システムなどを相次いで製品化する。事業領域を広げ、医療事業の売上高をまずは1000億円に引き上げを狙う。

 医療用ロボット分野では、手術などを行うロボットそのものの開発ではなく、駆動技術やソフトウエアなどの基礎研究を進めて用途展開を探る。細胞単位で組織を切るような、「ロボットの使用で、人間の手作業よりも確実性の高まる動作」(御手洗冨士夫会長兼社長兼最高経営責任者)の機械化を想定する。

 直径0・6ミリメートルの内視鏡は光ファイバーの先端に光学系を搭載し、光の反射率を検出することでリアルタイム動画を観察できる。これまでは難しかった血管などの細い穴に通せるため、早期の疾患発見などにつなげられる可能性がある。

 また高精度の穿刺(せんし)システムは、胸部や腹部に置いて医師がソフトウエア上で針の刺し方を指示すると、それに従って針の差し込み口を動かし、正しい内臓の位置に刺せるようにガイドする。MRI(磁気共鳴断層撮影装置)の中でも利用でき、医師は内臓の様子を見ながら刺し方を決められる。これらの装置は今後臨床試験を進め、製品化していく。

 すでに医療事業を統括するキヤノンバイオメディカルが、初の製品となる遺伝子型の異常を検出する試薬を発売すると発表した。製品ラインアップを拡充し、医療事業の育成を加速させる構え。
日刊工業新聞2015年2015年9月15日/30日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
東芝とキヤノンは半導体やディスプレーなど以前から関係が深い。もちろんウェットなところでディールが決まるわけではない。噂される買収金額は高いが、シナジーとか言い出したら切りが無い。危なっかしい海外企業の買収に多額の資金をつぎ込むよりも、「東芝の医療」は、事業としてもマネジメントとしてもよっぽど安心・安定感がある。

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