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中国「中高速」成長時代に突入。米国シフトを強める日本企業

目標6・5%以上に決定。L字のように横ばいを維持することも現状は厳しい?
 中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が5日開幕し、2016年から5年間の「第13次5カ年計画」の国内総生産(GDP)成長率目標を年平均6・5%以上に決定した。同時に16年単年の成長率目標は「6・5―7・0%」とした。国際通貨基金(IMF)の見通しでは中国の16年のGDP成長率は6・3%に対し、インドは7・5%。中国はもはや”高速“成長国の筆頭ではなくなり、本格的な“中高速”成長時代に突入した。

成長率が最優先ではないという意思表示


 16年の成長率目標を「6・5―7・0%」と5カ年計画の最低ラインである6・5%も許容する数字にしたことに関し、一部の中国専門家は「成長率最優先ではない意思表示の表れ」と受け止めている。7%前後と高めの数字を掲げれば、“数字合わせ”のために財政出動に走らざるをえない。

 現状は鉄鋼や化学品など製造業で供給過剰問題が深刻な中、財政出動に走れば過剰問題の先送りになりかねない。低めの数字も許容する背景には、“サプライサイド(供給側)改革”を推し進める中国当局の狙いがあるとみられる。

 一方で、5日の全人代では財政赤字の対GDP比を15年の2・3%から3・0%に緩和した。一定程度の財政支出を増やすことで、経済を下支えし、急な景気の冷え込みは避けたい意向だ。改革を推し進める代わりに財政支出も増やし、企業にとって改革の痛みを和らげる意図もあるとみられる。

 今後、気になるのはいつ景気が底打ちするかだ。15年は多くのシンクタンクや中国専門家が同年末には底打ちすると読んでいたが、予想は外れた。

 15年末の非公式会合で習近平主席は「経済はV字型ではなく、L字型の道をたどる」と発言したと伝えられているが、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「L字のように横ばいを維持することも現状は厳しい」との見方を示す。

関心は成長率で逆転したインドに移りつつ


 もっとも中国だけを責められない要因もある。原油価格の見通し一つをとっても、今年の経済は先を読みづらい。中国の1月の原油の輸入量は前年同月比4・6%減だったが、金額(人民元)ベースでは同39・2%減と大きく落ち込んだ。

 天然ガスにいたっては輸入量は同22・1%増と増えているが、金額が同17・3%減と落ち込んだ。今後、原油価格が持ち直してくれば、中国の輸入も大幅に回復する可能性はあるが、見通しはつきづらい。

 もっとも、このような先行き不透明な中国を尻目に、日本企業は中国から米国へのシフトを鮮明にしている。日本在外企業協会(東京都中央区)によると、2015年の日本企業の海外派遣者数は北米で13年比6%増加する一方、中国では同9%減少した。北米は6032人から6400人に増え、中国は8911人から8130人に減少した。

 また日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめたドル建ての日本の貿易統計を見ると、15年の日本の輸出に占める米国のシェアは前年比1・5ポイント増の20・1%に拡大する一方、中国のシェアは同0・8ポイント減の17・5%に縮小した。今や日本の最大の輸出先は米国で、同国の景気拡大に伴い、日本企業は米国シフトを強めそうだ。

 またジェトロによると、GDP成長率でインドが中国を逆転したことで「最近は日本企業の関心は中国からインドへ移りつつある」(海外調査部)という。中国が“中高速”成長時代に入ったことで、日本企業の海外事業の戦略にも変化が起きている。
(文=大城麻木乃)
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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
関連記事で宮本元大使が語っているように、先進国入りする前に成長が停滞する『中進国の罠(わな)』にはまり込むリスクを中国は自覚しており、意図的に経済成長率を下げて、経済に対する負担を軽減している。産業構造の転換を図るため、外資を活用し、短期間で科学技術力を向上させようとしており、日本はそれを十分警戒する必要がある。

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