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“国産コンピューターの父”が建設、富士通の「誇りの工場」の正体

“国産コンピューターの父”が建設、富士通の「誇りの工場」の正体

住民が山歩きを楽しめる散策路

木と砂利でできた階段をゆっくりと下ると、木漏れ日が差し込む散策路に入った。片側は樹木が林立、反対側は谷になっている。先に進むと舗装された道に出て、桜並木にそって上ると池が現れた。山歩きをした気分になるが、富士通の沼津工場(静岡県沼津市)の敷地内だ。さらに上ると建物が見えて工場の敷地にいると分かる。

沼津工場の面積は53万平方メートルで、東京ディズニーランドとほぼ同じ。緑化率は80%で、敷地は“ほぼ森”ということになる。また、古墳が4基あり、歴史的にも貴重な森だ。

沼津工場は大型コンピューターの生産拠点として1976年に操業した。当時から敷地全域を工場として使う予定はなかった。“国産コンピューターの父”と呼ばれた元常務の池田敏雄氏(故人)が居住やレクリエーション機能を備えた「生活ができる工場」を思い描いて建設した。

半世紀近くが経過し、現在は研究開発拠点となった。得居雷太工場長は「歴史を継承している」と語る。居住施設はなくなったが、生活空間との境界をなくそうとした理想を引き継ぐ。散策路は、住民が日常的に山歩きできるように整備した。従業員の息抜きや健康増進にも役立っている。敷地内には果樹園や茶畑もあり、春には茶摘みイベントを開いている。コロナ禍を経て5年ぶりに開催した23年は住民1200人が参加するなど、沼津工場は地域の生活の一部になっている。

生物多様性も保たれている。ハクセキレイやイソヒヨドリといった野鳥のほか、シカと遭遇することもある。過去の調査で187種の植物を確認した。毎日、敷地を見回る沼津工場総務部の久保田幸照氏は「周囲に溶け込んでいる」と工場の緑地を表現する。

緑地の維持管理の負担は小さくないはずだが、「富士通の環境への取り組みを象徴しており、誇りの工場」(得居工場長)と胸を張る。富士通は環境問題を解決するICTソリューション事業に注力する。沼津工場の緑地は、自らも環境保全を実践している証拠であり、顧客への提案に説得力を与えるはずだ。

また、同社は事業活動による生物多様性への負荷を25年度までに20年度比12・5%以上低減し、30年度には25%以上引き下げる目標を設定した。環境負荷を土地に換算して評価する「エコロジカル・フットプリント」を使い、生物多様性への影響を数値化して管理する先行的な事例だ。経営と一体化したネイチャーポジティブ(自然再生)を推進する。


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日刊工業新聞 2023年10月02日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
見学させてもらい、工場緑地の概念が変わりました。敷地内で標高差が60メートルもあり、駿河湾が見渡せます。ヤギが外来種を食べ、古墳や茶畑以外に野球場や体育館もあります。以前はゴルフもできたそうです。環境省が6日発表した「自然共生サイト」にも認定されました。 生物多様性に関連した著書「自然再生をビジネスに活かす ネイチャーポジティブ」を発刊しました。

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