東北で新しい都市づくり「遠野編」ー廃校から生まれる新・遠野物語

「遠野みらい創りカレッジ」、行政と民間交流拠点に

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廃校に開校した「遠野みらい創りカレッジ」
 遠野市の廃校に企業関係者が続々と訪れている。木造校舎を改装し、14年4月に開設した「遠野みらい創りカレッジ」が目当てだ。地域住民も含めた利用者は14年度が3500人、2年目の15年度は1月末で4500人を超えた。その半分が首都圏からだ。

 カレッジは住民、学生、企業の交流拠点。地域課題について立場の違う人が意見を出し合い、解決策を考える。行政も課題をカレッジに持ち込めば、庁舎内では思いつかないアイデアをもらえる。

 東洋SCトレーディング(東京都中央区)の社員は14年、新規事業のヒントを求めてカレッジを訪ねた。同社はインクメーカーの貿易子会社。数日間の滞在で、遠野の地酒をイタリアで販売する新しいビジネスを立案した。販路を広げたかった地元の上閉伊酒造にとって貿易のプロは頼もしい存在だ。都会の企業と地元の酒造会社をカレッジが結びつけた。

富士ゼロックスが提案、自社の事業モデル転換も促す


 11年の震災後、富士ゼロックスの研究員が廃校を交流拠点にしようと市に提案した。東京と地方、行政と民間との垣根を取り払う交流で”真の課題“を浮き彫りにし、解決策を定める。企業は本業で課題解決に取り組むため、ビジネスとして成り立つ。真の課題の解決策なら地域にも歓迎される。参加者の関係は密接となり、活動が継続すると研究員は構想を練った。

 同社復興推進室の樋口邦史室長は「プログラム設計が活動の中心」と説明する。カレッジで用意されたプログラムは、参加者が共通価値を見つけ出せるように作られているという。その設計手法はブラックボックスで、樋口室長は「模倣は困難」と胸を張る。

 同社は複写機の販売からソリューション(課題解決)型へと事業の軸足を移している。遠野での活動を契機に「課題を抱えている地域は多く、全国に伝播(でんぱ)できる」(樋口室長)と期待する。

 遠野市の本田敏秋市長は「世界的な企業や大学が遠野に来るようになり、地方にいると得がたかったグローバルな視点、弾力的な地域経営に発想を転換できた。ハードを実績として捉えがちだが、ソフトの価値を考えさせられた」と変化への手応えを語る。

民話の続きは、地域活性化のアイデア


2015年4月28日


 岩手県遠野市の廃校に「遠野みらい創りカレッジ」が開校して1年。大学生、社会人、住民ら延べ約3500人が利用した。県外の訪問者も多く、1700人以上が市内の民家に宿泊した。木造校舎の暖かみと“触れ合うように学ぶ”環境が人を惹きつけている。

 カレッジは産学官と住民との交流拠点。立場の違う人が意見を出し合い、地域活性化を考える。仮想事業を立案する研修に参加した女性は「どんどん考えが出てきた」と目を輝かす。遠野の資産を活用した新たな事業のアイデアを土産に帰京した。

 「地元の学生も全面的に協力している」と同市連携交流課長の石田久男さんも満足げだ。住民の参加によって本当の地域課題が見え、大学や企業の活力で解決するサイクルが生まれつつある。

 「市役所に机を置かせてもらえませんか」。その一言がきっかけだった。依頼者は遠野に魅せられた富士ゼロックスの研究者。石田さんが快諾すると研究者は市役所に通い詰め、カレッジ構想を練り上げた。人と人の交流をスムーズにする同社のノウハウを活用。企業による地域貢献の新しい形だ。

 『遠野物語』は民俗学者の柳田国男が地元に伝わる民話を書きつづった。現代版の遠野物語には、地域活性化のアイデアが書き込まれるはずだ。

日刊工業新聞2016年3月7日「深層断面」から抜粋

COMMENT

松木喬
編集局第二産業部
編集委員

ICTの会津若松と対照的に、遠野市はアナログな感じです。それに「交流拠点」って各地にあるような気がしますが、遠野は違います。年4500人が訪れ、しかもその半分が首都圏。企業関係者がビジネスのネタを探しにやってきます。

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