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ギガキャストにらむ…「超ハイテン」自動車用“適材適所”で進化中

ギガキャストにらむ…「超ハイテン」自動車用“適材適所”で進化中

日鉄は車向けハイテンの加工技術の提案にも余念がない

電気自動車(EV)普及で素材の軽量化が求められ、鉄鋼大手各社は超高張力鋼板(超ハイテン)を進化させている。骨格部品への適用拡大や冷間プレス材の普及、素材・加工技術の一体提案を図っている。自動車メーカーはアルミニウムの一体部品成形「ギガキャスト」導入を検討しており、鋼材使用量の削減も指摘されている。こうした中、“適材適所”を旗印に鉄の持つ優位性や豊富な選択肢、他素材に比べた環境負荷の低さを訴求していく。

トヨタ自動車は2026年に投入予定の次世代EVの大物部品をギガキャストで生産し、大幅な部品点数削減を目指す。米テスラが実用化で先行しているが、今後広がれば車づくりは大きく変わりそうだ。

アルミは比重が鉄の約3分の1と軽く、軽量化に適するが、鉄も板厚を約3分の1にすれば同等となる。超ハイテンとは一般に、引っ張り強度が980メガパスカル(メガは100万)以上の鋼板を指す。

部品ごとのニーズに応じた強度、性能などを実現し供給するが、素材一般に軽さを追求すると加工性が悪くなりがち。アルミは一部の骨格部品やパネル部品に採用されているが、コスト面から適用は高級車に限られてきた。衝突安全性の確保が不可欠な運転室(キャビン)周りなどは鋼材の領域とされてきた。

JFEスチールがイイダ産業と開発中の車体向け衝突エネルギー吸収構造の断面。破断を生じさせにくいのが特徴だ

数年来、超ハイテンの用途は拡大している。日本製鉄が開発したプレス技術「せん断成形工法」は、複雑形状のため適用が難しいとされた車のフロントサイドメンバーに、1180メガパスカル級の冷間プレス材を使えるようにした。従来材に比べ2倍の強度、15%の薄肉化を達成し、絞り成形法などに比べて生産性や材料歩留まりが向上した。

シミュレーション技術で金型内の鋼材の動きを解析した上で、特殊構造を持つ専用の金型を使用。加工対象物の拘束度合いを制御し変形の仕方を変えることで、割れやしわなどの回避に成功した。

JFEスチールは、イイダ産業(愛知県稲沢市)と共同で樹脂を組み合わせた自動車骨格向け超ハイテン製の衝突エネルギー吸収構造を開発した。1470メガパスカル、厚み1・4ミリメートルの部品は、エネルギー吸収性能を590メガパスカル、厚み2・0ミリメートルの部品に比べ53%高め、さらに同じエネ吸収性能での比較なら25%の軽量化を実現した。25年からの販売を目指す。

衝突時の破断抑制 エネ吸収性能、大幅に向上

超ハイテンは従来、衝突時の変形抑制が必要な運転空間などに適用が限られ、衝突時に変形するフロントサイドメンバーやリアメンバーは母材が破断していた。樹脂を鋼板で挟んだ新構造では衝突時に部品が曲がる位置から中心部までの半径(曲げR)が大幅に拡大、破断を避けエネルギー吸収性能を大幅に高めた。

EVではエンジンがなくフロント部がショートノーズ化するため「短い距離で確実に衝突時のエネルギーを吸収できることが求められる」(JFEスチールの担当者)という。

神鋼が力を入れる車向けハイテン

またJFEは1470メガパスカル級の超ハイテンを使用し、成形時のスプリングバック(元の形に戻る現象)を抑制する「ストレスリバース工法」を開発し、トヨタ自動車の「レクサスNX ルーフセンターリンフォース」に適用された。

引っ張り強度が高まると伸びや穴広げ性といった成形性は低下し、スプリングバック量も増大する傾向にある。このため事前の金型製作には時間とコストがかかっていた。新工法は変形の方向を逆にした直後の変形応力が小さくなる特性を生かして、成形時、材料に残る応力を低減させた。

一方、神戸製鋼所は超ハイテンの焼鈍能力を拡充し、商品ラインアップを増やしている。焼鈍工程での冷却パターンを工夫することで、組織を微細かつ最適な分散状態に制御することに成功した。

EV特有の新規部品であるバッテリーケースや周辺部品などには「マルチマテリアル化提案などでニーズ探索を進める」(神鋼)。同社は鉄鋼のほか、アルミ、溶接材料を持つだけに各事業の強みの融合に挑戦している。

設備投資を積極化 コスト・環境面で優位性

鉄鋼大手では、車メーカーが導入を検討するギガキャストは「(アルミの使用拡大で)脅威には違いないが、影響は限られるだろう」「全領域に適用されるわけではない」などの声が聞かれる。適用部位にもよるが、進化を続ける超ハイテンはコストにも優れているようだ。「衝突安全性が求められる中、アルミの薄肉化は限界があるはず」(関係者)。

各社は、超ハイテンがらみの設備投資に余念がない。日鉄は26年半ばまでに、名古屋製鉄所(愛知県東海市)に次世代熱延ラインを新設する。投資額は約2700億円に及ぶ。

JFEは千葉地区(千葉市中央区)に、高い溶接性、塗装性を実現する合金化溶融亜鉛メッキに対応できる設備を建設し、神鋼も加古川製鉄所(兵庫県加古川市)に新たな溶融亜鉛メッキ鋼板ラインを整備した。いずれも21年に立ち上げた。

さらに関連ソリューションも充実させている。日鉄は超ハイテンの性能を最大限引き出す部品構造や加工技術を開発し、次世代の鋼製自動車ソリューション「エヌセーフ オートコンセプト」を提案中。JFEは関連するプレス成形、接合、設計支援という3技術を「JESOLVA」としてパッケージ化している。神鋼は超ハイテンなど高付加価値品の販売比率を50%とする目標(22年度実績は44%)を掲げている。

鉄は製造時のCO2排出量がアルミなどに比べて少なくリサイクル性に富む。車の走行時の温室効果ガス排出量も含めて「鉄はライフサイクルアセスメント(LCA)で他素材より有利だ」(日鉄の担当者)という。

折しも、鉄鋼大手では生産時のCO2排出量を低いとみなすグリーン鋼材が出そろうタイミングであり、あらためて車部品における鋼材の位置付けが再認識されようとしている。


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日刊工業新聞 2023年09月21日

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