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父娘が二人三脚で夢見る「溶ける注射針」の開発

ライトニックス、世の中にない無痛針を世界に届ける
父娘が二人三脚で夢見る「溶ける注射針」の開発

「ピンニックスライト」を手にする福田萌社長

 「抜かずに患部にとどまって針は溶け、薬が浸透する注射針を作りたい」―。ライトニックス創業者で会長の福田光男は製薬会社のMR(医薬品情報担当者)、プロダクトマネージャーを経験した。前職の医療機器メーカー時代に内視鏡を扱う中で手術時に長い管を付けた注射器を体内に入れ抜く時に薬液がもれ、腹膜炎になる危険性を危惧していた。「金属製ではない注射針はできないか」と思い描く夢を実現するため医療ベンチャーを起業した。

蚊の針に似せる


 福田がまず取り組んだのは体への影響が少なく痛くない血糖値測定検査などの採血用の穿刺(せんし)針の開発だった。その時、参考にしたのが蚊の針。関西大学と共同研究で蚊の針は左右がギザギザ形状であることが分かった。

 蚊の針に似せ先端部をギザギザにして皮下組織の摩擦抵抗を減らし、痛くなく、折れにくくした。それだけでなく、完全密封個別包装で滅菌性が高く、樹脂製のため使用後に焼却処分できる工夫をした。

 経済産業省などの補助金を活用し、兵庫県立工業技術センターや長岡技術科学大学などの技術協力をえながら約10年かけ金属製の針でない世界初のトウモロコシのでんぷんを乳酸発酵したポリ乳酸樹脂製ランセット針「ピンニックスライト」が完成した。

 世の中にない無痛針の製品化により同社は経産省の「がんばる中小企業・小規模事業者300社」の認定や中小企業基盤整備機構主催の「ジャパンベンチャーアウォード2015」中小企業庁長官賞を受賞するなど高い評価を受けている。

リクルートを辞め営業担当の社長に


 2012年の「ピンニックスライト」販売開始に合わせてリクルートに勤めていた娘の福田萌が同社に入社。マーケティングなどの経験を生かし営業を担当する。

 15年に社長に就任した萌は兵庫県や尼崎信用金庫など金融機関から医療関係者や商社を紹介され国内外で販売する。14年度の全販売数は約100万本でこのうち海外比率は約8割を占める。

 フィリピンや米国、シンガポールで納入実績があり、医療機器の輸出販売許可を申請中の中国でも販売が見込まれる。同製品の販売拡大は萌に任せ、光男は、子供たちに苦痛がなく予防接種できる針先にマイクロメートル(マイクロは100万分の1)単位の穴を開け、ワクチンを充填する針などの製品化に専念する。そして起業時からの夢である溶ける注射針の完成に向け開発を続ける。
(敬称略、文=大阪・香西貴之)
【企業プロフィル】
▽社長=福田萌氏▽住所=兵庫県西宮市甲東園2の2の6▽資本金=8400万円▽設立=02年(平14)5月
日刊工業新聞2016年3月7日 中小・ベンチャー
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ビジョン、着想、技術、マネジメント、ストーリー・・。ベンチャーに必要なすべての要素が備わっている。応援したい。

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