激化する「次世代抗がん剤」開発…国内勢は独自技術で攻勢かける
抗体薬物複合体(ADC)の開発競争が激化している。ADCとは、抗体と低分子化合物を結合させた抗がん剤。がん組織の分子と抗体が結合してがん細胞を狙って攻撃できるため、副作用を抑えながら高い治療効果が期待できるモダリティー(治療手段)として注目をされる。海外製薬会社による大型買収などで勢力図が大きく変わる中、国内企業は独自技術の確立で攻勢をかける。(安川結野)
医薬品市場は大きく変化しており、2000年代までは低分子化合物が世界で多く売り上げていたが、近年は抗体医薬品が市場をけん引している。第一三共の野中浩一バイオロジクス本部長は「ADCの開発が進んできており、近く世界の医薬品売り上げベスト10に入ってくる」と見ている。調査会社のグローバルインフォメーションによると、ADCの世界市場規模は2022年に50億3280万ドルに達し、30年には165億9460万ドルにまで成長すると予測する。
国内の製薬会社では、第一三共がADCの開発に力を入れる。抗がん剤「エンハーツ」の23年度の売上高は前年度比1125億円増の3200億円を見込む。エンハーツは20本以上の臨床試験が進行しており、適応拡大でグローバルで今後も成長が見込まれる。また同社は次のADCの開発にも投資を集中しており、エンハーツを軸に25年度のがん領域の売り上げを9000億円まで引き上げる計画だ。
ADCは、高い専門性を持つバイオ企業が開発を進め、大手企業が買収や提携により技術や開発のライセンスを獲得することが多い。米製薬大手ファイザーはADCに強みを持つ米バイオ企業のシージェンを430億ドル(約5兆7000億円)で買収し、自社の開発を強化する。
シージェンの買収は、今後有力な候補薬の開発ライセンスの獲得を狙う製薬企業にとっても影響が出そうだ。アステラス製薬の抗がん剤「パドセブ」や、武田薬品工業の「アドセトリス」も元々はシージェンが手がけ、国内での開発を共同で進めてきた医薬品だ。多くの実績を持つシージェンの買収で、ファイザーは技術と有力な医薬品候補の囲い込みを狙う。さらに年間の研究開発費が100億ドルを超えるファイザーは、豊富な資金力で臨床試験を一気に進め、ADCの開発を加速させると見られる。
国内企業は独自技術でADC開発を強化する。第一三共は抗体に対して多く化合物を結合させ、より効果的にがん細胞を攻撃する独自のADC設計技術で、有力な医薬品を生み出してきた。またアステラス製薬は5月、ソニーと共同研究契約を結び、同社の高分子材料「キラビアバックボーン」とADCを組み合わせた抗がん剤の開発を目指している。
がんは治療ニーズも高く、ADCの成長市場として製薬会社の開発競争が激しい領域だ。中長期的にADCの開発を進めるには独自性のある技術の確立が不可欠だ。さらにグローバルでの競争力を高めるためには、メガファーマ(巨大製薬会社)とは異なる、非臨床や臨床試験における効率化といった戦略も求められそうだ。