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いつまで後ろ倒しが続くのか。鉄鋼、またまたまた需要回復に遅れ

年初、春先、そして「4―6月の底」という見方強まるが・・
いつまで後ろ倒しが続くのか。鉄鋼、またまたまた需要回復に遅れ

鉄鋼大手の減産解除はもう少し先か…(イメージ)

 鉄鋼の需要回復が遅れている。国内では在庫調整の進展の目安になる薄鋼板3品在庫が大幅に増加し、建築用の小形棒鋼の生産もプラスに転じる気配がない。海外ではようやく中国の鋼材市況が底入れしたものの、日本の輸出量は減少が続く。少し前までは、春先の本格回復も期待されていたが、関係者の間では4―6月期が底になりそうだとの見方が強まっている。

在庫さらに増加。内需の弱さにトヨタ生産停止追い打ち


 「残念な結果。総じて生産レベルは前年より1割ほど低いのに、想定以上に増えてしまった」。鉄鋼大手の関係者は予想外の数字に無念さを隠さない。1月末の薄板3品在庫は427万トンで2015年12月末比17万6000トンの大幅増。その大半がメーカー在庫だ。

 新日鉄住金の樋口真哉副社長は「もう、実需より生産を低く抑える在庫調整のモードではない。これからは需要見合いで生産していく」としているが、1月の水準は15年度では5月末の431万2000トンに次ぐ2番目の多さ。調整を緩めれば、一気に在庫水準が跳ね上がるように、内需の弱さをあらためて浮き彫りにした。

 さらに、2月は愛知製鋼の爆発事故によるトヨタ自動車の生産休止があり、「例年、2月末の在庫は減少する傾向にあるが、どんどん減ることはないだろう。この分だと、4―6月がボトムになるのかな」(鉄鋼大手関係者)と覚悟する。

建築向けも年後半に向け良い兆しなったくなし


 建築向けの荷動きも鈍い。小形棒鋼の生産量は1月までで17カ月連続の減少。全国小棒懇談会の中村真一会長(新日鉄住金執行役員)は「厳しさを実感している。新年の賀詞交歓会では年後半には多少戻ってくると申し上げたが、足元で年後半に向けての良い兆しはまったくない」と言い切る。

 鉄筋を使うRC造建築物の着工が低水準なこともあり、同懇談会の高島秀一郎副会長(共英製鋼会長)は「RC造はもう伸びないと思って生産、販売に取り組んでほしい」と訴える。

 こうした状況を反映し、東京製鉄は3月の鋼材販売価格を5カ月ぶりに全品種で値下げ。直近の円高で輸入材への対抗という側面もあるが、「もう少し需要が回復すると思っていた。新国立競技場の設計の白紙撤回が周辺の仕事にも影響した。

 すべて半年以上、後にずれてしまった」(今村清志常務)と出荷量の低迷も響いた。その上で「夏以降は東京五輪や再開発案件の着工が始まる。春先は厳しいが、年後半は明るくなる」(同)と同様に4―6月が底になるとの見方を示す。

減産解除は海外市況次第


 一方、鉄鋼の輸出量も1月で6カ月連続の減少。中国では年明け以降、市況が改善しているものの、日本鉄鋼連盟の柿木厚司会長(JFEスチール社長)は「まだホットコイルを含め輸出価格が採算ラインに乗らない」と首を横に振る。減産解除の見通しについても「採算に乗らない以上はつくらない」と述べ、その時期はあくまでも海外市況次第だと念を押した。
(文=大橋修)

日刊工業新聞2016年3月4日 素材面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
もともと1-2月は季節要因で鋼材の在庫は増え、生産活動は低調なものだ。ただ需要期を迎える年度末のこの時期に、業界トップから明るい話題が聞こえないのは季節要因以上の実態の悪さを表している。東京五輪で計画されている各種建設計画の遅れや、エネルギー関連の需要減、さらにこれまで良かった自動車向けもやや息切れしている。新興国経済が不振で鋼材輸出は低調で、一方で中国や韓国からの輸入材は増加する。さまざまな要素が絡み合って重苦しい雰囲気となっている。まさに、春よ来いというのが実感だろう。

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