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トヨタもきっと注目しているマツダ「モノ造り革新」の先

菖蒲田清孝常務執行役員に聞く「どんな構造をどこから買ったものでどう作るか」
トヨタもきっと注目しているマツダ「モノ造り革新」の先

宇品第1工場(広島市南区)

 ―2016年度からの新中期経営計画で、生産部門の課題は。
 「現中計ではメキシコの車両工場やタイの変速機工場を立ち上げ、海外生産能力が全体の3割だったのを47%まで高めた。新中計では、新しく作ってきた生産能力を最大限活用できるように効率を高め、次世代車両のスムーズな導入に備える。重点課題は人材育成で、単に作業をこなすだけでなく、その意味まで考えて改善できる人を育てたい」

 ―マツダが海外でも日本と同等品質の車作りを目指す理由は。
 「マツダの世界生産台数は限られ、特定国向けの専用車もない。グローバルで1種類の製品を作ってお届けするしかない。需要に合わせ国内外の工場の能力を振り分ける『スイング生産』を目指す。実現にはどの工場の生産車でもブランド価値が認められる高い品質が必要になる」

 ―「モノ造り革新」の取り組みは、今後どう進化させますか。
 「これまでのモノ造り革新では『どんな構造をどう作るか』、つまり構造と工程を、開発と生産の担当が連携して考えていた。今後はさらに調達担当を加え、三つの軸で『どんな構造をどこから買ったものでどう作るか』を考えることになる。従来は日本製の材料や部品を前提に設計していたので、海外材を使うとなると、同じ検討作業をやり直す必要があった。調達担当と連携して開発すればそこを効率化できる」

 「もう一つは、シミュレーション技術の活用拡大。今後は海外工場でも、新規立ち上げ後に徐々に生産を増やすのではなく、フル生産中にモデルチェンジする必要が出てくる。そのためにはシミュレーション技術を駆使して、事前検証とそれによる確定の度合いを高めていく必要がある」

 ―ビッグデータ活用やモノのインターネット(IoT)技術は。
 「現場のデータがすごくたくさん取れるようになった。従来こうしたデータは品質管理に使っていたが、今後は開発にフィードバックする。エンジン工場だけで1万種類のデータを取り、そのうち22の特性が燃費改善に関係することがわかってきた。次世代エンジンに織り込んでいく」

 「IoTについては開発から生産までのデータ活用は進化させてきたが、お客さまとつなぐところはできてない。マツダ全体として何をやりたいのかを考えて業務設計したい」

【記者の目・再び海外へ足元固める時期】
 18年度までの新中計期間中にマツダは新工場を建設せず、足元を固める方針を選んだ。「スイング生産」などはマツダ特有の事情に基づいた目標だが、実現すれば成果は大きい。世界の需要の約2%を取るという大まかなシェア目標に沿えば、いずれまた海外新工場が必要な時が来る。飛び立つ前に一度身をかがめる時期だ。
(聞き手=広島・清水信彦)
日刊工業新聞2016年3月1日 自動車面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
規模が大きくないことを逆手にとって大手メーカーにない独自色を打ち出しているのが今のマツダの特徴だ。新世代技術「スカイアクティブ」は最たるもので、豊田章男トヨタ自動車社長に「トヨタの設計改革『tnga』の一周先を行っている」と言わしめた。マツダならではの事情で進める「スイング生産」は生産面での独自な取り組みで、大手メーカーもきっと注目している。 (日刊工業新聞社編集局第一産業部・池田勝敏)

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