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「スター・ウォーズ」の世界を目指す宇宙ベンチャーがJAXAプロ参画

アイスペースの昆虫型ロボが宇宙探査、群知能開発へ
「スター・ウォーズ」の世界を目指す宇宙ベンチャーがJAXAプロ参画

開発する宇宙群ロボットのイメージ(アイスペース提供)

 宇宙開発ベンチャーのispace(アイスペース、東京都港区、袴田武史社長)は、地球近傍天体での資源探査を担う群ロボットの開発を始めた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙探査イノベーションハブ事業に参画し、東北大学と天体表面での不整地走行技術を開発する。さらに、ジグソーとロボット1000台規模の分散協調制御技術を開発する。両プロジェクトとも、2017年初頭までに試作機を開発し、運用性などを検証する。

 JAXAのプロジェクトでは多脚型の昆虫型ロボを開発する。小型ロボを多数、天体に展開して広範囲の探索を目指す。運搬や調査、通信などの機能を複数の機体で連携して補い合う。複数台で運用するため、縦孔の中など回収できなくなる場所の調査も可能だ。

 このロボットたちを統制する群知能をジグソーと共同で開発する。アイスペースが18―23年に予定している月面資源探査に活用する。アイスペースは東北大の吉田和哉教授が参画する宇宙開発ベンチャー。

アイスペースはどんな会社?


 ispace(アイスペース)が現在、挑んでいるのは、日本初の民間による月面探査だ。米エックスプライズ財団が主催し、米グーグルがスポンサーを務める国際的な宇宙開発レース「グーグル・ルナー・エックス・プライズ(GLXP)」に、「チームハクト」として参加。その実績を元に、宇宙開発ビジネスへの参入を狙う。袴田武史社長の「子どもの頃に見た映画『スター・ウォーズ』の世界を実現したい」という夢が、同社の活力だ。

 GLXPのミッションは、2015年末までに民間主体で開発した移動ロボットを使い、月面を500メートル以上走行して動画や静止画を地球に送るというもの。最初に達成したチームには2000万ドルの賞金が贈られる。アイスペースは現在、小型の月面移動ロボットを開発中だ。

 もともと映画の世界に憧れて日本の大学で宇宙工学を専攻した袴田社長。その後進んだ米ジョージア工科大学で宇宙ビジネスへの気持ちを強くした。卒業後は「宇宙船を造るには技術者だけでなく、経営や資金調達ができる人材も必要だ」と、経営コンサルティング会社に入社。他の産業の調達コスト削減方法を学んだ。

 そんな時、欧州チームから07年に発表されたGLXPに誘われる。悩んだものの半年ほどの事業化調査を経て可能性を確信。09年初め、合同会社(LLC)を立ち上げて参加する体制を整えた。13年1月に欧州チームが脱退し単独チームとなったが、「選択の幅が広がり意思決定もスムーズになった」と、前向きだ。

 GLXPに必要な資金は十数億円に上る。5月には資金調達の幅を広げるため、LLCから株式会社へ組織変更した。同時に、袴田社長は所属していた経営コンサルティング会社を退職。より専念できる環境を整えた。新社名の「アイ」には、イノベーションやインスピレーション、イマジンなどさまざまな意味が込められている。

 近年、宇宙開発参入の窓口は広がってきた。日本でも機運は高まっているものの、普通の人にとっては「宇宙」がまだまだ遠く、夢のような世界にとらえられている。袴田社長は「ここを打破して一般の人たちが宇宙のニーズを考えられるようになれば、ビジネスは広がる」と断言する。その世界は1―2年後には来ると見込む。

 アイスペースにとってGLXPは最初の一歩。その先には月や火星、小惑星の探査ロボットに加えて、災害対応や警備、設備保全といった地上で活躍するロボットの事業化も視野に入れる。GLXP関連市場は、10―25年後に6000億円を超えるとの予測もある。「20年をめどに、数十億円レベルの事業を手がけたい」(袴田社長)。同社の目の前には、宇宙のように大きなビジョンと市場が広がっている。
(文=政年佐貴恵)

【プロフィル】
▼設立=10年9月(13年5月に合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパンから組織変更)
▼所在地=東京都渋谷区恵比寿1の8の14
▼大学との関係=東北大学の吉田和哉教授が役員に加わり、共同でローバーを開発
▼資本金=1000万円
▼主な出資者=チーム「ハクト」のメンバー
▼売上高=非公開
日刊工業新聞2016年3月4日 ロボット面/2013年11月27日 科学技術・大学面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
群で動く昆虫ロボットは宇宙だけでなく、災害地などでも活躍できそうです。GLXPでは2016年後半の打ち上げを目指しています。

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