九州の銀行は国盗り合戦。沖縄を含めた再編の可能性も
ふくおかフィナンシャルグループ、十八銀行を傘下に
ふくおかフィナンシャルグループは、長崎県の十八銀行との経営統合に向けて基本合意した。2017年4月に株式交換で完全子会社化し、18年4月をめどに同グループ傘下で長崎県を地盤とする親和銀行と合併させる。統合後の総資産は15年3月期の単純合算で18兆4429億円となり、地銀グループで国内首位となる。
26日に福岡市内で会見した、ふくおかフィナンシャルグループの柴戸隆成社長は「長崎経済の活性化にとって一緒になるのがベスト。福岡、九州との連携強化をサポートしていく」と、統合の意義を強調した。十八銀行の森拓二郎頭取も「長崎の将来のためにはベストの判断」と述べた。
株式交換比率は未定。長崎県は九州でも人口減少が早く進むと予想されており、統合による経営基盤の強化で経済規模の縮小に対応する。店舗の統合など効率化を進めるが、人員削減は行わない。情報通信技術(ICT)を活用した金融サービスの開発など新分野の開拓やサービス向上に人材を振り向ける。
十八銀行は筑邦銀行、佐賀銀行とシステムを共同化しているが統合により離脱する見通し。
県境や地域をまたぐ地方銀行の再編が加速しそうだ。マイナス金利下で、体力のある大手銀を除けば、自行で新たなビジネスモデルを描ける状況にない。全国的に貸し出しが伸び悩む中、地銀各行は他県への貸出姿勢を強めており、地盤からの資金流出が活発になっていることも背景にある。金融庁も地方創生のため地銀再生が不可避との姿勢を示しており、第二地銀を中心に再編圧力は高まる。
茨城県が地盤の常陽銀行と、栃木県が地盤で足利銀行を傘下に持つ足利ホールディングス(HD)は、2016年10月1日をめどに経営統合する統合後の総資産は約15兆円となり、3位の地域金融グループが誕生する。
常陽銀行と足利HD傘下の足利銀行は旧三菱銀行の親密行が集まる火曜会メンバー。足利HDが経営健全化を果たした今、経営統合の組み合わせに違和感はない。
「茨城県と栃木県と隣り合わせにしては珍しく仲が良好な2行」(銀行関係者)。隣県だけに支店統廃合の効果は少なく、本社機能のスリム化が経営統合の焦点になる。
両行は規模の拡大を生かし、南進戦略を加速するだろう。つくばエクスプレスや武蔵野線、宇都宮線の沿線沿いに首都圏を伺う。埼玉りそな銀行や武蔵野銀行などとの競争が激化する可能性が高い。
2014年の秋以降、地銀の再編が動き始めた。肥後銀行と鹿児島銀行が経営統合し九州フィナンシャルグループ(FG)が10月に発足したほか、横浜銀行と東日本銀行は16年4月に経営統合する。
一方、有力地銀の千葉銀行や静岡銀行はビジネスモデルの差異化に舵を切る。静岡銀の中西勝則頭取は「低金利下で規模を拡大してもメリットがない」とマネックスグループやマネーフォワードに出資して、ITを取り込むことで新たなサービスを模索する。
問題は、差異化を生み出せず、体力が低下した地銀だろう。日銀のマイナス金利政策により、銀行の総資金利ざや(貸出利回り、資金運用利息から預金コストを差し引いた利ざや)が益々縮小しつつある。利益を出せない構造的な体質となってきている。
さらに、地域間の資金フローを見ていくと、中部、特に愛知・三重・岐阜の3県内で資金需要が活発で、愛知県に対して、三重・岐阜の両県からの大きな資金フローが存在する。
一方、北関東では、近隣県を含めれば地元での資金需要がある程度発生しているものの、その利率は比較的低い。そのため、近接する大都市圏である1都3県へ資金が流出している。
北関東や、愛知県への資金流出が多い三重県と岐阜県の地銀にとっては、1都3県、愛知県の地銀と統合した場合、将来の成長戦略を描きやすい。
また、昨年7月に金融庁長官に就任した森信親氏は地銀再生問題に切り込む姿勢を見せる。9月にまとめた金融行政方針にも地銀問題を盛り込んでいる。地方創生には地銀の再生は不可欠。金融庁が地銀再生に力を注ぎ始めた今、自立したモデルを見いだせない地銀は再編の一手を選択せざるをえない。
(文=栗下直也)
※肩書きや内容は当時のもの
26日に福岡市内で会見した、ふくおかフィナンシャルグループの柴戸隆成社長は「長崎経済の活性化にとって一緒になるのがベスト。福岡、九州との連携強化をサポートしていく」と、統合の意義を強調した。十八銀行の森拓二郎頭取も「長崎の将来のためにはベストの判断」と述べた。
株式交換比率は未定。長崎県は九州でも人口減少が早く進むと予想されており、統合による経営基盤の強化で経済規模の縮小に対応する。店舗の統合など効率化を進めるが、人員削減は行わない。情報通信技術(ICT)を活用した金融サービスの開発など新分野の開拓やサービス向上に人材を振り向ける。
十八銀行は筑邦銀行、佐賀銀行とシステムを共同化しているが統合により離脱する見通し。
再編、第二地銀の動きに注目
2015年10月28日の記事を加筆・修正
県境や地域をまたぐ地方銀行の再編が加速しそうだ。マイナス金利下で、体力のある大手銀を除けば、自行で新たなビジネスモデルを描ける状況にない。全国的に貸し出しが伸び悩む中、地銀各行は他県への貸出姿勢を強めており、地盤からの資金流出が活発になっていることも背景にある。金融庁も地方創生のため地銀再生が不可避との姿勢を示しており、第二地銀を中心に再編圧力は高まる。
スリム化が焦点
茨城県が地盤の常陽銀行と、栃木県が地盤で足利銀行を傘下に持つ足利ホールディングス(HD)は、2016年10月1日をめどに経営統合する統合後の総資産は約15兆円となり、3位の地域金融グループが誕生する。
常陽銀行と足利HD傘下の足利銀行は旧三菱銀行の親密行が集まる火曜会メンバー。足利HDが経営健全化を果たした今、経営統合の組み合わせに違和感はない。
「茨城県と栃木県と隣り合わせにしては珍しく仲が良好な2行」(銀行関係者)。隣県だけに支店統廃合の効果は少なく、本社機能のスリム化が経営統合の焦点になる。
両行は規模の拡大を生かし、南進戦略を加速するだろう。つくばエクスプレスや武蔵野線、宇都宮線の沿線沿いに首都圏を伺う。埼玉りそな銀行や武蔵野銀行などとの競争が激化する可能性が高い。
2014年の秋以降、地銀の再編が動き始めた。肥後銀行と鹿児島銀行が経営統合し九州フィナンシャルグループ(FG)が10月に発足したほか、横浜銀行と東日本銀行は16年4月に経営統合する。
差異化にカジ
一方、有力地銀の千葉銀行や静岡銀行はビジネスモデルの差異化に舵を切る。静岡銀の中西勝則頭取は「低金利下で規模を拡大してもメリットがない」とマネックスグループやマネーフォワードに出資して、ITを取り込むことで新たなサービスを模索する。
問題は、差異化を生み出せず、体力が低下した地銀だろう。日銀のマイナス金利政策により、銀行の総資金利ざや(貸出利回り、資金運用利息から預金コストを差し引いた利ざや)が益々縮小しつつある。利益を出せない構造的な体質となってきている。
さらに、地域間の資金フローを見ていくと、中部、特に愛知・三重・岐阜の3県内で資金需要が活発で、愛知県に対して、三重・岐阜の両県からの大きな資金フローが存在する。
一方、北関東では、近隣県を含めれば地元での資金需要がある程度発生しているものの、その利率は比較的低い。そのため、近接する大都市圏である1都3県へ資金が流出している。
北関東や、愛知県への資金流出が多い三重県と岐阜県の地銀にとっては、1都3県、愛知県の地銀と統合した場合、将来の成長戦略を描きやすい。
また、昨年7月に金融庁長官に就任した森信親氏は地銀再生問題に切り込む姿勢を見せる。9月にまとめた金融行政方針にも地銀問題を盛り込んでいる。地方創生には地銀の再生は不可欠。金融庁が地銀再生に力を注ぎ始めた今、自立したモデルを見いだせない地銀は再編の一手を選択せざるをえない。
(文=栗下直也)
※肩書きや内容は当時のもの
日刊工業新聞2016年2月29日 総合3面