未公開の調達額1000億円台に回復、15年ぶりのベンチャーブームの実態
ベンチャー・ビジネスの名付け親は「政府は何もしてくれなくていい。ビジネスの邪魔だけはしないでくれ」
ITベンチャー企業の資金調達が大幅に増加―。情報処理推進機構(IPA)が22日まとめた「IT人材白書2015」によると、2009年以降、低迷が続いていた国内の株式未公開ベンチャーによる資金調達額が14年に大きく増加し、6年ぶりに調達総額が1000億円台に回復した。けん引役はインターネット企業。国内未公開ベンチャーによる14年の調達総額の7割をインターネット企業が占めるとともに、企業数でも全体の7割に及んだことが明らかとなった。
【前年比1.5倍超に】
ジャパンベンチャーリサーチ(東京都港区)の協力により、10―14年設立の未公開企業297社を対象に調査(14年11月時点)。この分析結果をIT人材白書に盛り込んだ。これによると、資金調達を行った国内未公開ベンチャーの数は13年に続き減少したものの、14年の調達金額は1154億円と、前年比1・5倍超となった。
国内未公開ベンチャー市場へ資金の流入が大きく膨らんでいることが確認されたが、全体が活況というわけではなく、1社当たりの調達額が大型化する傾向にある。「起業後に業績を伸ばし、成功したITベンチャー企業に資金が集中している」(IPA)のが実態だ。
1社当たりの資金調達額の推移を中央値でみると、09―12年は2000万円程度で横ばいだったが、13、14年と連続して調達額が大きく伸長。13年の調達金額の中央値は4000万円に倍増した。14年は7250万円と、12年に比べ約3・6倍となった。
新たなビジネスやサービスのアイデアを生み出すのはベンチャーの力が大きく、とりわけIT人材への期待は大きい。1次産業を含む地域産業の活性化に向けて、IT活用の促進を国を挙げて推進する動きが本格化している。
【雇用の受け皿】
政府のIT総合戦略本部が6月にまとめる地方創生IT利活用推進会議の中間とりまとめでは、地域の創業間もないIT企業を支援するファンド創設や、小規模事業者のIT環境のクラウド化などを盛り込む方針。また、地方創生IT利活用推進会議では「ITベンチャーは少ない初期投資で起業でき、さらに雇用創出の受け皿としての効果も期待できる」といった意見も出ている。
IPAも「ベンチャー企業への投資機運は高まっている。この状態を長く続かせることが必要だ」としている。ただ、同白書でも指摘しているように「起業が容易になったことは、成功が簡単になったことと同意ではない」。
70年代以降の過去数回、“ベンチャーブーム”が起きては収束している。ベンチャーキャピタル(VC)などの資金が成功した企業に集中している状況からすると、現状は甘くない。
(日刊工業新聞2015年04月23日 電機・電子部品・情報・通信面)
【事業構想大学院大学学長・清成忠男氏に聞く】
―2013年度のベンチャーキャピタル(VC)投資額は前年度比8割増。新規の株式公開も増えています。ベンチャーの活力がもたらす経済成長へ期待が持てますか。
「イノベーション(技術革新)を起こす企業は、経済情勢にかかわらずいつの時代も一定割合存在しており(投資環境など)ブームに左右されるものではない。日本ではベンチャーが育たないと言われて久しいが、果たしてそうなのか。ソフトバンクや楽天、ユニクロは元はベンチャー企業ではないか。(特定分野や市場で競争力を発揮する)隠れたチャンピオンは潜在的に存在する」
「一方で、長らくデフレが続いてきたことがベンチャーの活躍に水を差してきた面は否めない。デフレは新たな事業に挑む若者にとってビジネスチャンスを見いだすことを困難にする」
―起業倍増へ向け政府は支援環境の整備を打ち出しています。どんな施策を講じるべきですか。
「通産省(当時)がベンチャー支援策を模索し始めた40年ほど前、ベンチャー経営者数人を役人に引き合わせたことがある。彼らは一様に政府にこう言った。『何もしてくれなくていい。ビジネスの邪魔だけはしないでくれ』と。その本音は今も変わっていないのではないか」
―政権の看板政策である地方創生でも地域発ベンチャーを生み出すことが重要課題です。
「全国満遍なくベンチャーを生み出そうとする施策はナンセンス。地域の中で、新たな事業や技術革新に挑む土壌が培われているからこそ独創的な企業が生まれ、それをモデルにして新企業が次々に続く。結果として新たな産業集積が構築される。浜松はもとより、LED(発光ダイオード)トップメーカーの日亜化学工業が本社を置く阿南市を中心にLEDバレー構想を進める徳島県のように、伸びる企業や地域をエンジンに周辺を活性化する発想が求められる。政府が掲げる地方創生の5原則の一つ、『地域性(各地域の実情を踏まえた施策)』はベンチャー振興においても当然重視されるべきである」
―これからの起業家に求められる資質は何でしょう。
「新事業の成否は構想力にかかっている。いまや技術の芽はさまざまな場面に見いだすことができ、新たな事業機会が多発している。問われるのはこれら技術をどうまとめ上げ、独自の構想として練り上げていくか。こうした知的作業の積み重ねが革新的なビジネスをもたらす。(教育を通じてこうしたプロセスに関わることは)私自身にとっても刺激的なことである」
(聞き手=編集委員・神崎明子)
【前年比1.5倍超に】
ジャパンベンチャーリサーチ(東京都港区)の協力により、10―14年設立の未公開企業297社を対象に調査(14年11月時点)。この分析結果をIT人材白書に盛り込んだ。これによると、資金調達を行った国内未公開ベンチャーの数は13年に続き減少したものの、14年の調達金額は1154億円と、前年比1・5倍超となった。
国内未公開ベンチャー市場へ資金の流入が大きく膨らんでいることが確認されたが、全体が活況というわけではなく、1社当たりの調達額が大型化する傾向にある。「起業後に業績を伸ばし、成功したITベンチャー企業に資金が集中している」(IPA)のが実態だ。
1社当たりの資金調達額の推移を中央値でみると、09―12年は2000万円程度で横ばいだったが、13、14年と連続して調達額が大きく伸長。13年の調達金額の中央値は4000万円に倍増した。14年は7250万円と、12年に比べ約3・6倍となった。
新たなビジネスやサービスのアイデアを生み出すのはベンチャーの力が大きく、とりわけIT人材への期待は大きい。1次産業を含む地域産業の活性化に向けて、IT活用の促進を国を挙げて推進する動きが本格化している。
【雇用の受け皿】
政府のIT総合戦略本部が6月にまとめる地方創生IT利活用推進会議の中間とりまとめでは、地域の創業間もないIT企業を支援するファンド創設や、小規模事業者のIT環境のクラウド化などを盛り込む方針。また、地方創生IT利活用推進会議では「ITベンチャーは少ない初期投資で起業でき、さらに雇用創出の受け皿としての効果も期待できる」といった意見も出ている。
IPAも「ベンチャー企業への投資機運は高まっている。この状態を長く続かせることが必要だ」としている。ただ、同白書でも指摘しているように「起業が容易になったことは、成功が簡単になったことと同意ではない」。
70年代以降の過去数回、“ベンチャーブーム”が起きては収束している。ベンチャーキャピタル(VC)などの資金が成功した企業に集中している状況からすると、現状は甘くない。
(日刊工業新聞2015年04月23日 電機・電子部品・情報・通信面)
【事業構想大学院大学学長・清成忠男氏に聞く】
―2013年度のベンチャーキャピタル(VC)投資額は前年度比8割増。新規の株式公開も増えています。ベンチャーの活力がもたらす経済成長へ期待が持てますか。
「イノベーション(技術革新)を起こす企業は、経済情勢にかかわらずいつの時代も一定割合存在しており(投資環境など)ブームに左右されるものではない。日本ではベンチャーが育たないと言われて久しいが、果たしてそうなのか。ソフトバンクや楽天、ユニクロは元はベンチャー企業ではないか。(特定分野や市場で競争力を発揮する)隠れたチャンピオンは潜在的に存在する」
「一方で、長らくデフレが続いてきたことがベンチャーの活躍に水を差してきた面は否めない。デフレは新たな事業に挑む若者にとってビジネスチャンスを見いだすことを困難にする」
―起業倍増へ向け政府は支援環境の整備を打ち出しています。どんな施策を講じるべきですか。
「通産省(当時)がベンチャー支援策を模索し始めた40年ほど前、ベンチャー経営者数人を役人に引き合わせたことがある。彼らは一様に政府にこう言った。『何もしてくれなくていい。ビジネスの邪魔だけはしないでくれ』と。その本音は今も変わっていないのではないか」
―政権の看板政策である地方創生でも地域発ベンチャーを生み出すことが重要課題です。
「全国満遍なくベンチャーを生み出そうとする施策はナンセンス。地域の中で、新たな事業や技術革新に挑む土壌が培われているからこそ独創的な企業が生まれ、それをモデルにして新企業が次々に続く。結果として新たな産業集積が構築される。浜松はもとより、LED(発光ダイオード)トップメーカーの日亜化学工業が本社を置く阿南市を中心にLEDバレー構想を進める徳島県のように、伸びる企業や地域をエンジンに周辺を活性化する発想が求められる。政府が掲げる地方創生の5原則の一つ、『地域性(各地域の実情を踏まえた施策)』はベンチャー振興においても当然重視されるべきである」
―これからの起業家に求められる資質は何でしょう。
「新事業の成否は構想力にかかっている。いまや技術の芽はさまざまな場面に見いだすことができ、新たな事業機会が多発している。問われるのはこれら技術をどうまとめ上げ、独自の構想として練り上げていくか。こうした知的作業の積み重ねが革新的なビジネスをもたらす。(教育を通じてこうしたプロセスに関わることは)私自身にとっても刺激的なことである」
(聞き手=編集委員・神崎明子)
日刊工業新聞2015年04月06日 中小・ベンチャー・中小政策面