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トヨタ・デンソー・アイシン…“水素社会”実現へ技術開発加速、世界で勝ち抜けるか

トヨタ・デンソー・アイシン…“水素社会”実現へ技術開発加速、世界で勝ち抜けるか

7月末のスーパー耐久レースでの水素充填。短期間で車両の耐久性向上・軽量化や給水素操作の自動化などを実現した

水素社会の実現に向けトヨタ自動車とトヨタグループ各社が動きを活発化している。トヨタは水素の製造から運搬、利用に関する幅広い領域で知見の獲得や技術開発を進め、将来の商用展開を見据える。デンソーアイシンも製造工程における水素活用の実証を始めている。水素は脱炭素社会に有力なエネルギー源。欧州や中国でも水素の利活用が加速しており、国際競争に勝つためにも技術の「手の内化」が欠かせない。(名古屋・川口拓洋)

【トヨタ】水素エンジン車/レース場で技術磨く

トヨタは2014年に世界初の量産型燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」を市場投入するなど水素の活用では先行する。今ではFCVの乗用車・商用車だけでなく、水を電気分解する装置で製造した水素を工場のガス炉で使用するなど「つくる・はこぶ・ためる・つかう」ための多様な取り組みを進めている。

同社の水素関連事業で注目されているものの一つが水素エンジン車の開発だ。水素エンジンを搭載したスポーツ車「GRカローラ」をレースの場で走らせ、技術を磨いている。23年5月末には世界で初めて液体水素を燃料とした車両を持ち込み、富士スピードウェイ(FSW、静岡県小山町)での24時間耐久レースに参戦。さらに7月末にはオートポリス(大分県日田市)で開かれたスーパー耐久レースで2度目の走行に挑んだ。

驚くのは、液体水素エンジンの開発スピードだ。FSWとオートポリスのレース間隔は約2カ月。この短期間で車両の耐久性向上や軽量化、給水素操作の自動化などを実現した。

車両の改善では、水素タンクから液体水素をくみ出しエンジンに供給するポンプの耐久時間を約30%向上した。トヨタの社内カンパニーでスポーツ車を手がけるガズーレーシングカンパニーの高橋智也プレジデントは「簡単に言うとポンプのギアとベアリング(軸受)の間に緩衝機構を設けた」と話す。一般的なギアの摩擦は潤滑油などで軽減するが、水素に潤滑油が混じるため同車両では利用できない。緩衝機構の追加により、ポンプへの衝撃などを吸収できる。

軽量化ではテスト走行や前回のレースで把握したデータを分析し、配管などのシステムを最適化した。ポンプ自体の耐久性向上も軽量化に貢献し、駆動モーターやバッテリーの軽量化につながった。5月時より車重を40キログラム減の1910キログラムにした。

従来比3・5キログラム減の12・5キログラムに軽量化した「リターンジョイント」

車両側だけでなく、トヨタが岩谷産業と共同開発し、液体水素を供給する移動式ステーションも改良。水素を車両に供給する「充填ジョイント」は2・4キログラム減の6キログラムに、気化した水素をタンクから戻す「リターンジョイント」は3・5キログラム減の12・5キログラムにした。設計の見直しや水素に触れない部分をアルミニウムに変更するなどして軽量化した。

このほか、水素を車両に供給するための操作も従来は14工程あったが、車両のバルブ開閉動作などを自動化することで5工程に縮めた。給水素の作業を安定化し効率を上げる狙いがある。

7月1日付で新設された水素事業の専門組織「水素ファクトリー」を束ねる山形光正プレジデントは「未来のため環境に配慮したエネルギーと共存することが必要で、それは水素と共存すること」と語る。水素の利活用は日本だけでなく世界で加速しているとして「実現の難しさもあるが、地に足が着いた水素の活動にしていきたい」と方針を示す。

【デンソー・アイシン】メタネーション/脱炭素化の有効手段

アイシンの西尾工場に設置した小型資源循環装置

製造現場での水素活用は、多くの企業が挑むカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)への有用な手段の一つだ。デンソーやアイシンでは水素と二酸化炭素(CO2)を反応させてメタンを合成・製造する技術「メタネーション」に取り組む。

デンソーは安城製作所(愛知県安城市)内で「二酸化炭素循環プラント」の実証を進める。プラントを稼働する発電機の排気からCO2を回収。水素発生装置で作った水素と反応させ、生成したメタンを再び発電に使う。

CO2回収能力は年8トン分。現在は同1トンのCO2を回収し、電力量換算で同約7万キロワット時分のメタンを生成している。25年までに、工場で使うアルミ溶解炉1台分に相当する1000トンレベルまでプラントを拡大する計画だ。

一方、アイシンはアルミ溶解炉の排ガスから分離・回収したCO2を活用。工場内の太陽光発電による電気で生成した水素と合成しメタンを作る。このメタンを燃料として溶解炉に戻す。

西尾工場(同西尾市)に小型の資源循環装置を設置した。独自設計で、一般的な装置に比べ高さを4分の1―5分の1に抑えたのが特徴だ。同工場はトランスミッション(変速機)や電動駆動装置「eアクスル」のカバーなどを製造。同社の工場の中で売上高比で最も多くのCO2を排出する。

1日当たり0・024トンのCO2を回収可能で、メタン生成量は同12立方メートル。現状は溶解炉1台から発生するCO2の100分の1の循環にとどまるが、CO2回収方法などに磨きをかけ、25年度に溶解炉1台から発生するCO2を全量回収する装置の開発を目指す。


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日刊工業新聞 2023年08月17日

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