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スパイラルキャピタル・直井氏「日本の気候テックは世界を狙える」

日本でディープテック企業を支援する体制が整ってきた。国は1社当たり最大30億円を補助する「ディープテック支援事業」を始めるなど、支援を強める。こうした背景からIT領域に投資していたベンチャーキャピタル(VC)がディープテック分野へ進出している。スパイラルキャピタル(東京都港区)は2019年からITに加え、ディープテック領域に投資するファンドを運用する。直井聡友シニアアソシエイトにディープテック投資の現状を聞いた。 (小林健人)

―ディープテック領域への投資を始めた理由は。

「我々はディープテックの中でも、脱炭素など気候変動対策に資する気候テックに着目している。日本はこの分野において技術を持っている。SaaS(サービスとしてのソフトウエア)と比較しても市場のターゲットは大きく、海外マーケットを狙えるポテンシャルがある。収益的なリターンも狙える」

直井氏

―日本での気候テックのスタートアップの数は海外に比べて、少ない印象を受けます。

「実際、海外と比較すれば数は少ないだろう。ただ毎月面談しているが、気候テックスタートアップはつきない。数自体は増えている。気候テックは専門性がないと投資が難しいと思われがちだが、経営学修士(MBA)がバックグラウンドの経営者も増えている。すでに欧米では気候テックがビジネスチャンスであるという認知が広がってきている。日本にもこの流れが来るだろう」

「起業のシーズは大学にあることが多い。課題はそのシーズと経営者をいかにマッチングするかだ。経営自体は任せたいという研究者も多いため、マッチングの事例を作ることが不可欠だろう」

―ディープテックは事業化に時間を要することも特徴です。運用期間が決まっているファンドで投資することも難しさもあるかと思います。

「VCは早い段階で社会実装できるものに投資せざるを得ない。そういった意味でモビリティーやエネルギー、食農の分野は注目だ。グローバルでも資金が注入されており、早期に社会実装を目指せる。」

「一方でCO2の回収・利用・貯留(CCUS)といったエマージングテック(将来の実用化が期待される先端技術)に投資できない訳ではない。一つの事例がユーグレナだ。同社はミドリムシ由来のバイオ燃料の実用化を目指しながらも、当初は健康食品事業で売り上げを上げて新規上場(IPO)した。どんな科学技術でも上流まで遡れば、必ず応用先はある。それを使って、小規模でも売り上げがあるかという観点は投資において重要だ。また本筋のエマージングテックの開発が未成熟でも、応用で売り上げがあれば、投資家の期待を作っていくこともできるはずだ」

―ディープテック支援事業など、国の支援も強まっています。

「ディープテック支援事業はいい補助制度だ。ディープテックは設備投資などの資金が必要になる。米国と比較すると、日本での調達額は一桁小さい。そうした中で補助によってエクイティ調達分が削られない点は大きい」

「特定の分野では国が強力な支援を行う『国策企業』のようなものがあっても良いのではないか。米国エネルギー省(DOE)は二次電池のリサイクルを行う米レッドウッド・マテリアルズに20億ドル(約2800億円)の低金利融資を実施した。これは自国内で二次電池の部材を確保し、サプライチェーン(供給網)を完結させたいという動きにほかならないだろう。現在のスタートアップ投資が少ないと10年後、20年後の国内総生産(GDP)においてマイナスに反映されてくる。そうした意味でも日本もスタートアップを意図的に大きくする政策は必要ではないか」

「ITと比較しても日本のディープテックは成長の期待がある。日本の中でもカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の意識が大企業でも高まっており、需要家が育ちつつある。こうした状況を加味してもユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)が登場してくる可能性は十分ある」

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