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腕が悲鳴を上げる!それでも美しい構造物に魅せられる鉄筋技能者

建設現場で働く人材最前線(上)
腕が悲鳴を上げる!それでも美しい構造物に魅せられる鉄筋技能者

柱内部の鉄筋結束。印に従って上から順に結束していく

 縦11本、横21本の鉄筋が、4人の鉄筋技能者の手で次々と支柱の形に組み立てられていく。支柱内部に入れる鉄筋は、一番重いものだと総量700キログラムにもなる。鉄筋結束に使うのはシルバーという結束線と、ハッカーと呼ばれる工具。くるくると工具のヘッドを回転させ、設計図に合わせて鉄筋を組み立てていく。バブル崩壊後から建設業就業者は減少しているが、特に人手不足に悩むのが鉄筋業界。コンクリート構造物建設には不可欠な技能者だが、日々の作業ややりがいはなんだろうか。現場を見学しながら、鉄筋技能者に話を聞いた。

「習うより慣れろ」


 都内の東武スカイツリーライン・曳舟駅前。東武鉄道と伯鳳会が駅直結の病院建設に着手している。大林組施工で、竣工は2017年3月末。ここではアイコー(東京都千代田区、相場康雄社長、03・3864・7445)が協業会社として鉄筋技能者12人を現場に投入している。敷地面積は2999平方メートル、施工面積は9733・94平方メートル。地上7階建ての鉄筋コンクリート建造物として、鉄筋総使用量は1000トンにも上る。

 メンバーの一人、砂澤(いさざわ)敏行さん(35)は高校卒業後に同社に入社して以来、鉄筋一筋のベテランだ。技術職に憧れて選んだ業種だが、入社当初は戸惑ったという。「習うより慣れろ」と、先輩は言葉少なに指示するのみ。当初は横にぴったり張り付いて見よう見まねで鉄筋を結束した。鉄筋束は25キログラムも手に取れば腕が悲鳴を上げた。しかし「一回で自分の体重と同量(当時60キログラム)を運べるようになれ」と教わった。

連帯感と達成感の作業


 雨天でも進捗(しんちょく)状況に合わせて現場に出る。正直つらいと感じることもあるが、床一面に組み上がった鉄筋を眺めると「コンクリートを打設するのが惜しくなる」(砂澤さん)ほど美しく、達成感がある。現場での鉄筋結束作業のほか、設計図作成も手がける。その設計図に従って、鉄筋はアイコーのグループ会社の工場で加工され、結束箇所に印を付けられて現場に届けられる。A2サイズの設計図は筆者が見ても理解できなかったが「邪魔になるので現場には持ち込まず、ある程度頭に入れてから作業に臨む」(同)。

 毎朝8時から作業開始だが、7時には現場に来て、仲間と朝食を取りながら雑談し、作業の打ち合わせをする。仲間と共に作り上げる現場だからこそ、連帯感が欠かせない。寡黙な印象の砂澤さんだが、現場ではフットワークも軽く、仲間と笑顔でやり取りしながら作業に没頭する。IoTが進む現代の建設現場であっても、鉄筋組み立ての作業はロボット化が非常に難しい分野の一つだ。加えて、渋谷俊文職長が「若い人が入ってこない」と悩むように、鉄筋技能者の人材確保が業界全体の喫緊の課題となっている。
日刊工業新聞2016年2月29日 特集面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
世の中にある建造物は、こうしたさまざまな業種の建設技能者によって造られている。技能者にとって仕事の醍醐味(だいごみ)は、日々の作業を通じて、具体的にモノができあがるのを実感できることだろう。ただ、建設業界は全体的に給与水準が低く作業がきついこともあり、若者の入職者が少ない。国や業界団体はこうした状況を改善しようと、さまざまな施策に取り組み始めている。即効薬はないが、着実に待遇改善に向けて施策を積み重ねていくことが重要だ。 (日刊工業新聞社編集局第二産業部・村山茂樹)

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