気鋭のスピーチライターが教える言葉で世界を変える術(前編)
蔭山洋介コムニス代表「ジョブズのプレゼンの凄さはあの声につきる」
今、スピーチライターという職業が注目されている。もともとは欧米の政治活動で民衆を動かすことを目的としていたが、最近は企業でも経営者のプレゼンテーション力が競争力に直結する時代。なぜ、スピーチライティングが重要なのか?そのポイントは?気鋭のスピーチライターとして活躍する蔭山洋介氏(コムニス代表)へのインタビュー。「言葉で世界を変える術」を2回に渡ってお届けします。
―まず企業経営者のプレゼンテーションについて伺います。総じてへたくそですか?
「へたに思いませんよ。なぜなら全員へたに見えますから(笑)。スピーチを自分の考えていることを表明するツールぐらいに思っているうちはダメですね。スピーチは感情的なものを聞く人にもたらして、ある種のゴールに向かってみんなが一致協力することを作り出す作業なんです。だからそれを最大化するために立ち姿、振る舞い、身振り手振りまで訓練しないといけない。ヒトラーはオペラ歌手に指導を受けて見違えるように演説がうまくなったと言われています。だから経営者のプレゼンテーションも目的設定がとても重要。目的設定がないものといえば結婚式のスピーチとか。あれは、良い文章をただ書けばいいんです」
―書く言葉と話す言葉には根本的に違いがあるということですか。
「はい。書く言葉の方が情報密度が高く精密なんです。読む方も粗を探そうという気が起こる。話す言葉は情報密度がもっと薄くて、『感情の量』が多い。だから新聞とテレビから受け取る情報密度はまったく別物だし、テレビの方は感情に介入的であって、新聞は客観的で距離感があるメディアと言えます。自分の感情をマネジメントするスピーチは本当にしっかり作り込まれていて、簡単には真似できません」
―よくスティーブ・ジョブズのプレゼンは天才的だと言われます。蔭山さんから見てどこがすごいと思いますか。
「一番は単純に声です。ちっちゃい声を大きくするとか、通りにくい声の発声を変えることはできるんです。ただし、声がでかいこととスピーチのうまさは関係ありません。無視できる声と無視できない声、気になる声と気にならない声があって、そこは結構重要です。おそらくジョブズの場合、彼の声を作っているのは、『自分は神の力をも自由に扱っているんだ』というぐらいに錯覚するほど強力な確信からきていると思います。話し方のテクニックの本を読んでも理解できない。ジョブズのプレゼンには、もうテクニックと呼べない無数のテクニックが重なっていますね」
―日本でソフトバンクの孫さんなどはどうですか。
「孫さんは上手ですね。プロモーション全体が良いのと、一貫して言葉をうまく活用して物事を動かそうとしている。孫さんが自分でやっていると思いますが。企業も、インパクトのあるスピーチを一つ設計するだけでクライアントに価値をもっと提供できる。20年前なら僕のような仕事は存在しなかった。インターネットが普及して、個人が個人のお客様を直接獲得するマイクロビジネスも可能になりました。これからそのようなビジネスは確実に増えていくし、マイクロで勝負していく人にこそスピーチスキルが求められると思います。だからスタートアップやベンチャーの起業家に対してのサポートは積極的にやっていきたいですね」
―謝罪会見も企業の盛衰を左右します。
「謝罪会見は全部見ていますよ。うまかったと思うのは、トヨタ自動車が米国のリコール問題で炎上した時に、リーダーが泣くのはあり得ない、という見方をした人もいるかもしれませんが、あれで見事に鎮火しました。謝罪は、『お騒がせして申し訳なかった』とトップが心から謝って空気を元に戻すように振る舞うことが大切で、何を言うかではないんです。画面で見えちゃいますから。『我々は正しく行動している』と主張してもダメです。理研とかは逆に良くなかった例ですね」
(後編は明日公開予定)
<プロフィール>
蔭山洋介(かげやま・ようすけ)
1980年兵庫県生まれ。三嶋由紀夫の演出で知られる元文学座演出家の荒川哲生(故人)に師事。音響物理学、音声学、心理学などを学んだのち、米国イリノイ大学にて演技論や演劇史を学ぶ。2006年にコムニスを設立。現在はスピーチライター、ブランドディレクター、演出家としてパブリックスピーキング(講演、スピーチ、プレゼン)やブランド戦略を裏から支えるブレインとして活躍。クライアントには一部上場企業から中小・ベンチャーの経営者、政治家、NPO代表などリーダー層が多い。今年1月に『スピーチライター 言葉で世界を変える仕事』(角川Oneテーマ21)を出版、スピーチライターがテーマの日本テレビのドラマ『学校のカイダン』(2015年1月-3月放送)では指導役も務めた。
―まず企業経営者のプレゼンテーションについて伺います。総じてへたくそですか?
「へたに思いませんよ。なぜなら全員へたに見えますから(笑)。スピーチを自分の考えていることを表明するツールぐらいに思っているうちはダメですね。スピーチは感情的なものを聞く人にもたらして、ある種のゴールに向かってみんなが一致協力することを作り出す作業なんです。だからそれを最大化するために立ち姿、振る舞い、身振り手振りまで訓練しないといけない。ヒトラーはオペラ歌手に指導を受けて見違えるように演説がうまくなったと言われています。だから経営者のプレゼンテーションも目的設定がとても重要。目的設定がないものといえば結婚式のスピーチとか。あれは、良い文章をただ書けばいいんです」
―書く言葉と話す言葉には根本的に違いがあるということですか。
「はい。書く言葉の方が情報密度が高く精密なんです。読む方も粗を探そうという気が起こる。話す言葉は情報密度がもっと薄くて、『感情の量』が多い。だから新聞とテレビから受け取る情報密度はまったく別物だし、テレビの方は感情に介入的であって、新聞は客観的で距離感があるメディアと言えます。自分の感情をマネジメントするスピーチは本当にしっかり作り込まれていて、簡単には真似できません」
―よくスティーブ・ジョブズのプレゼンは天才的だと言われます。蔭山さんから見てどこがすごいと思いますか。
「一番は単純に声です。ちっちゃい声を大きくするとか、通りにくい声の発声を変えることはできるんです。ただし、声がでかいこととスピーチのうまさは関係ありません。無視できる声と無視できない声、気になる声と気にならない声があって、そこは結構重要です。おそらくジョブズの場合、彼の声を作っているのは、『自分は神の力をも自由に扱っているんだ』というぐらいに錯覚するほど強力な確信からきていると思います。話し方のテクニックの本を読んでも理解できない。ジョブズのプレゼンには、もうテクニックと呼べない無数のテクニックが重なっていますね」
―日本でソフトバンクの孫さんなどはどうですか。
「孫さんは上手ですね。プロモーション全体が良いのと、一貫して言葉をうまく活用して物事を動かそうとしている。孫さんが自分でやっていると思いますが。企業も、インパクトのあるスピーチを一つ設計するだけでクライアントに価値をもっと提供できる。20年前なら僕のような仕事は存在しなかった。インターネットが普及して、個人が個人のお客様を直接獲得するマイクロビジネスも可能になりました。これからそのようなビジネスは確実に増えていくし、マイクロで勝負していく人にこそスピーチスキルが求められると思います。だからスタートアップやベンチャーの起業家に対してのサポートは積極的にやっていきたいですね」
―謝罪会見も企業の盛衰を左右します。
「謝罪会見は全部見ていますよ。うまかったと思うのは、トヨタ自動車が米国のリコール問題で炎上した時に、リーダーが泣くのはあり得ない、という見方をした人もいるかもしれませんが、あれで見事に鎮火しました。謝罪は、『お騒がせして申し訳なかった』とトップが心から謝って空気を元に戻すように振る舞うことが大切で、何を言うかではないんです。画面で見えちゃいますから。『我々は正しく行動している』と主張してもダメです。理研とかは逆に良くなかった例ですね」
(後編は明日公開予定)
<プロフィール>
蔭山洋介(かげやま・ようすけ)
1980年兵庫県生まれ。三嶋由紀夫の演出で知られる元文学座演出家の荒川哲生(故人)に師事。音響物理学、音声学、心理学などを学んだのち、米国イリノイ大学にて演技論や演劇史を学ぶ。2006年にコムニスを設立。現在はスピーチライター、ブランドディレクター、演出家としてパブリックスピーキング(講演、スピーチ、プレゼン)やブランド戦略を裏から支えるブレインとして活躍。クライアントには一部上場企業から中小・ベンチャーの経営者、政治家、NPO代表などリーダー層が多い。今年1月に『スピーチライター 言葉で世界を変える仕事』(角川Oneテーマ21)を出版、スピーチライターがテーマの日本テレビのドラマ『学校のカイダン』(2015年1月-3月放送)では指導役も務めた。
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