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アバターが人生の一部になる社会で人の心や関係性はどう変わるのか

アバターが人生の一部になる社会で人の心や関係性はどう変わるのか

分身ロボカフェでは大型ディスプレーでアバターになって接客

慶応義塾大学などの研究チームが、ロボットアバター(分身)で外出困難者の働き方を広げている。障害などで外出できなくてもアバターを遠隔操作しカフェなどで接客する。新しい技術で表現できることが増えると、接客を工夫してサービスをよりよくする。外出困難者が社会とともに試行錯誤する貴重な場となっている。障がい者福祉の新しい形だ。アバターが人生の一部になる社会で人の心や関係性はどう変わるのか。(小寺貴之)

「大好きなアルパカになれました。自分が一番癒やされてます」―。オリィ研究所(東京都中央区)が運営する分身ロボットカフェの一幕だ。分身ロボパイロットのさえちゃんは接客中もウキウキが止まらない。テーブル席の分身ロボから大型ディスプレーのアルパカのCGアバターに乗り移り、クッキーを焼いて提供した。

調理自体はCGで単純化されている。クッキーの生地にスタンプを押してオーブンに入れる。健常者のようにコントローラーを握れれば簡単にできてしまう作業だ。たださえちゃんは身体表現性障害を抱える。「いっぱい練習したんですけど。難しいんですよね」と、オーブンの前でアルパカが右往左往する様子をお客さんは固唾(かたず)をのんで見守った。

慶大の南沢孝太教授は「お客さんからは『パイロットさんがロボットのとき以上に自由で楽しそうで良かった』と好意的なコメントをいただけた」と振り返る。接客では分身ロボでの対話の後にCGアバターへ乗り移る。パイロットの趣味や障害などを含めたストーリーを来店客に伝えている。そのため、やりたかったことができる喜びをパイロットとお客が共有できた。

南沢教授は内閣府・科学技術振興機構のムーンショット型研究開発事業でプロジェクトマネージャー(PM)を務める。オリィ研が実証環境を提供し、ロボットとCGアバターの効果を検証した。認知心理面から分析する東京大学の鳴海拓志准教授は「従来は研究室での短期的な効果を見ていた。人生の一部となった際の中長期的な変化を捉えたい」と説明する。パイロットの未来展望や期待感などに心の変化が現れると見込む。性別違和のある女性パイロットは男の子のアバターを使って「やっと必要不可欠な翼を得た」と手応えは大きいようだ。

オーブンの前で右往左往するアルパカになったさえちゃん
2人で1台のロボを動かしトッピング

名古屋工業大学は2人のパイロットが一つの機体を操作しケーキをトッピングするシステムを実装した。2人は操作インターフェースを通してノウハウを共有する。田中由浩教授は「ベテランと一緒に操作すると新人が一気にうまくなった」と振り返る。

課題はこうした仕組みの社会実装だ。研究者や参加者は、これは社会に必要な仕組みと確信している。新しい障がい者福祉の形はすでにある。この規模を広げ持続可能にするには、社会にどんな成果と科学的根拠を示せばいいのか。オリィ研の吉藤健太朗所長は「働ける人の数が指標になる」という。実践を通して示していく。

日刊工業新聞 2023年07月24日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
同じオリヒメに載っていても分身ロボカフェ以外では、普通の店員さんのようにぞんざいに扱われる例もあるそうです。普通の店員さんがぞんざいに扱われることも問題ですが、分身ロボカフェに集まるお客さんはオリィ研の夢に共感している方が多いです。こうしたコミュニティはテクノロジー以上に価値があります。そんな分身ロボカフェだから成り立っている側面はあって、温かいコミュニティをいかに広げるかが課題です。テクノロジーにできるのは新しい可能性とチャレンジを用意することだと思います。アバターの操作やロボ介した二人三脚はパイロットさんにとっていいチャレンジになりました。単純にパイロットさんが苦労し克服するだけでなくて、接客サービスに反映されているので成功体験を共有できました。これはアイドルなどの推し活に通じる部分もあるかもしれません。観光は地域の名所や名産品を消費するだけでなく、地域おこしに加わりその喜怒哀楽を共有することがより深い観光体験として確立されつつあります。成熟した推し活は障がい者福祉と共通する部分があるかもしれません。

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