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アップルも入居…生まれ変わったロンドンのランドマーク「バタシー・パワーステーション」の全貌

その昔、巨大火力発電所としてロンドンの家庭や施設に電力を供給した「バタシー・パワーステーション」が、廃炉、取り壊しの危機を経て、新しい複合商業施設と生まれ変わった。歴史的建造物として興味深い、この発電所跡の歴史をたどってみた。

双子のような発電所2つと4つの煙突が目印に

ロンドン南西部ワンズワース区バタシーにある複合商業施設「バタシー・パワーステーション」の建物は、建設工事が1929年にスタートしており、約1世紀近くも大都市ロンドンのランドマークの一つであり続けている。

パワーステーションの名の通り、もともと火力発電所。一つの発電所に2基の煙突が備えられた建物「バタシーA」「バタシーB」が並ぶ。Aは1930年代、Bは1950年代に建設された。計4基の煙突から高々と煙がたなびき、第二次世界大戦時にはイギリス空軍のパイロットが、霧の中、この煙を頼りに帰路に着いたというエピソードも。ちなみに当初の予定では、煙突は円形ではなく四角形だったそうだ。

建設工事着工から全面的に完成するまで26年もかかったというから、かなり大掛かりな建設計画だったのだろう。

著名な建築家で工業デザイナーのジャイルズ・スコット氏がメインの外装の設計者で、バタシーAもBも双子のようにほぼ同じな「ブリックカテドラルスタイル」で建てられている。ブリックはレンガ、カテドラルは大聖堂を意味し、世界最大級のレンガ造りの教会のような威容を誇る。このような造りは、イングランドで現存する発電所跡ではとても珍しい。

操業時は国会議事堂やバッキンガム宮殿にも電力を送り、最盛期にはロンドンの約20%の電力を供給していたのだ。メインボイラーハウス内はとても広々としていて、チャールズ国王と元妻のダイアナ妃の結婚式で有名となった、巨大なセントポール大聖堂がすっぽり入るほど。

多くのポップカルチャーのアイコンにもなった

バタシー・パワーステーションの名がイギリス国内だけでなく、世界中に知られるきっかけになったのは、世界的なプログレッシブロックバンド「ピンク・フロイド」の1977年発売のアルバム『アニマルズ』のカバーを飾ったこと。「ビートルズ」の1965年の映画『ヘルプ! 4人はアイドル』にも登場して、数多くのポップカルチャーのアイコンとしても重宝されるようになった。

1964年4月には、発電所内で発生した停電によって、BBCセンターを含むロンドン中が大停電に見舞われてしまった。ちょうどBBC-Two(NHK Eテレのようなポジションのテレビ局)の開局される予定だったが、このおかげで次の日に順延になったというトラブルもあった。

廃炉後は取り壊しの危機に遇うも…

その後主要なエネルギー源が石炭から石油や天然ガスなどに変わったこともあり、電力の供給量が減少し、1983年に稼働を停止する。バタシーレジャーや香港のパークビュー・インターナショナルなどのデベロッパーが再開発を計画するも、なぜか頓挫してしまう……。いわく付きの発電所跡になってしまった。

廃炉になってからほとんど使われていなかったため、建物は荒れ放題。取り壊しの危機にも瀕していたが、現在の株主のSPセティア、シメ・ダービー・プロパティなどに買収されて、2011年から本格的に再開発がスタート。

グレードⅡ*(イングランドの特別に重要な建造物)に認定されているので、建物の修繕から始まり、約40年の時を超えて、2022年に複合商業施設がオープンした。内部は発電所時代から続く豪華なアール・デコ様式で、古い機械(サーキット・ブレーカーなど)をオブジェに活かすなど、とてもスタイリッシュ。世界的な人気アパレルブランド(日本のユニクロも出店)、レストラン、カフェなどが軒を連ねる。

煙突を生かした、ロンドンを一望する展望台が完成

商業施設のフロアを結ぶ階段の踊り場には、エリザベス2世、チャーチル元首相などの有名なイギリス人の顔をモチーフとした巨大なポップアートがあり、目を引く。そして、今も変わらず、バタシー・パワーステーションの象徴である煙突のうちの1本は、高さ109mの展望台となった。エレベーターで頂上まで登れば、ロンドンの街を一望できる。

家賃が高額な住居もあり、スティングなどの超有名アーティストが物件を所有しているという噂も。GAFAの一角を担うアップルUKのオフィスもここに移転する予定だ。

ロンドン地下鉄のノーザンラインが延伸して「バタシーパワーステーション駅」もでき、再開発が完成した暁には、イングランド最大級の人々が集うオフィス、ショッピング、娯楽、文化エリアになるそう。

メインエントランス前は、テムズ河に面しており、広大な芝生エリアに。ピクニックチェアーが用意されており、気持ちのいい散歩ができる。広場から空を見上げると、近くの空港に離着陸する飛行機が煙突真上に飛んでいくのが見える。

その昔、空軍のパイロットが煙突から出る煙を頼りにしたように、現役のパイロット達は今もなお、煙突を目印に飛行するのだろうか?(ライター=東野りか)

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