「がん治療薬」の競争激化…世界市場拡大に商機
先進国を中心に市場が拡大する中、製薬会社によるがん治療薬開発の競争が熾烈(しれつ)さを増している。新たなモダリティー(治療手段)の実用化やアンメット・メディカル・ニーズ(治療法が見つかっていない医療ニーズ)を満たす医薬品を世の中に出すため、各社は有望な医薬品や候補物質をいち早く見つけ、獲得へ相次いで乗り出している。(安川結野)
米医薬コンサルティング大手のIQVIA(アイキューヴィア)によると、2022年の世界のがん治療薬市場は前年比11・1%増の約1974億ドル(約28兆円)で、全疾患領域で最大の市場規模だった。日本市場だけ見ても22年度は前年度比6・2%増の約1兆7839億円で、拡大傾向にある。
アステラス製薬はがんなどの原因となるたんぱく質を分解へ誘導する医薬品の開発に向け、共同研究と独占的オプション契約を米バイオ企業のカルジェンと結んだ。アステラス製薬は標的たんぱく質分解誘導を重点研究領域に位置付ける。岡村直樹社長は「標的たんぱく質分解誘導や遺伝子治療への投資を拡大する」としており、研究開発や提携などを強化する姿勢だ。現在がん領域を中心に開発を進めている。
カルジェンへの契約一時金は3500万ドル(約50億円)、さらに開発の進み具合などで最大19億ドル(約2700億円)を売り上げに応じたロイヤルティーとして支払う。
標的たんぱく質分解誘導はこれまでターゲットにできなかったたんぱく質に働きかける新たな技術。アステラス製薬は抗がん剤「イクスタンジ」を主力製品に持つが、標的たんぱく質分解誘導による開発パイプラインを強化し、がん領域を軸に攻勢をかける。
また、武田薬品工業は中国の製薬企業ハッチメッドから大腸がん治療薬「フルキンチニブ」について、中国を除く全世界での開発・販売の独占的ライセンス権を取得。欧米で承認申請が進んでいる。同薬は中国ですでに販売されており、また対象となる患者も多い。武田薬品は同薬のライセンス権獲得に契約一時金として4億ドル(約521億4660万円)を投じ、さらに開発や販売に応じて最大7億3000万ドル(約951億4900万円)を支払う見込みだ。
がん治療薬は欧米をはじめとした既存の市場に加え、今後は中国やインドなどでも経済発展に伴い需要が大きく増え世界市場は拡大が見込まれる。また治療ニーズも大きな疾患領域だ。製薬各社は開発の迅速化と早期の実用化に向け、提携する傾向にある。獲得した医薬品や候補物質が事業を支える大型薬に成長するか、企業の目利き力も試される。