急伸、多様化するBNPLの未来。国内にも広がるビジネスチャンス
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コロナ禍で台頭した後払い決算の手段「BNPL」
「BNPL(バイ・ナウ・ペイ・レイター)」という語を見かけることが増えた。読んで字のごとく、「今買って、後で支払う」という後払い決済の手段だ。2021年9月には、米決済大手PayPal(ペイパル)が日本のPaidy(ペイディ)を約3000億円で買収すると発表して話題になった。このニュースで初めてBNPLを知った人も多いのではないだろうか。
BNPLでは、手元の資金が不足していても、銀行口座がなくても、クレジットカードを持っていなくても、簡単な手続きでその場で商品を購入し、後で支払うことができる。
身近なところでは、アマゾンの支払いにPaidyが使える。「支払い方法」にPaidyを選び、実名とメールアドレス、携帯電話番号を入力。初めて使う際には、入力した携帯電話に4桁の認証コードが届き、そのコードを支払い方法の画面に入力すれば登録完了、そのまま商品が購入できる。私も実際に試してみて、その手軽さに驚いた。
海外では、BNPLは以前から日常的な決済手段として定着していたが、パンデミックによって、オンラインショッピングやフードデリバリーの支払い手段として利用件数を伸ばしたという。
いまや大注目のBNPL市場だが、その仕組みやメリット、デメリットなどは、まだよく認知されていないように思う。
『BNPL 後払い決済の最前線 ―急成長する市場と日本・世界の先進事例50』(一般社団法人金融財政事情研究会)は、国内外の50もの具体例を紹介しつつ、BNPLとは何かという基本と現状、今後の課題やビジネスチャンスなどを紹介する「BNPLガイド」だ。著者の安留義孝さんは、日本アイ・ビー・エム株式会社IBMコンサルティング事業本部金融サービス事業部のアソシエイトパートナーである。
より柔軟に、幅広い対象者に向けて選択肢を提示
まず、BNPLの仕組みを見てみよう。BNP事業者は、消費者が購入した商品の代金を立て替えて加盟店に支払う。消費者はこれを、後払いでBNPL事業者に返済する。返済方法には、指定日までの一括払い、3回、4回といった短期分割払い、数カ月から数年かけて返済する長期分割払いなどのパターンがある。BNPL事業者の収益源は、加盟店からの手数料、消費者からの金利と手数料(条件によって発生)、消費者からの延滞金利と延滞手数料だ。
世界的に注目されるBNPLだが、普及率には国ごとの特徴やばらつきがあるようだ。例えばスウェーデンでは、ECサイトでのショッピングの決済の23%がBNPLだという。しかし他のヨーロッパ諸国でも1桁代後半の普及率が多い。日本は3%で、インド、インドネシア、フィリピン、シンガポールなどアジア諸国と同程度。ちなみに、米国では2%に過ぎないそうだ。
BNPLは、年会費がかからない、翌月一括払いや短期分割払いでは金利や手数料がかからない場合が多いなどのメリットがあるが、これらはクレジットカードにも当てはまるケースが増えている。クレジットカードを上回る大きなメリットといえば、与信審査が簡単であることによる使い勝手の良さということになるだろう。
クレジットカードは、周知のように生年月日、年収、勤務先、勤務年数などの詳細な個人情報から「人」を審査する。一方、BNPLは「人」ではなく「取引」を審査することが多い。例えば、買い物をした時に、「商品の送付先住所が、ホテルや空き地ではなく、住宅地か」「換金性の高い商品を繰り返し購入していないか」などが即座に審査される。したがって、クレジットスコアが低くカードを作れなかったり、限度額が低額に抑えられている人でも、BNPLならばたいていは「後払い」で買い物ができる。
日本市場にも広がるビジネスチャンス
BNPLが注目される背景には、社会環境の変化もあるようだ。近年、働き方が多様化し、フリーランスや、ジョブホッパーと呼ばれる短期に転職を繰り返す働き方をする人も増えている。学生のベンチャー企業家、外国人労働者といった人たちも含め、返済能力があり、返済意思も高いにもかかわらず、年収や雇用形態といった従来の審査基準では、クレジットカードの審査を通過しないケースがある。BNPLなら、より柔軟に、幅広い対象者に向けて選択肢を提示できる。
紹介される世界のBNPLの事例は、じつに多彩だ。スウェーデン発の世界大手Klarna(クラーナ)はAlipay(アリペイ)と提携して中国にも進出しているほか、決済大手のStripe(ストライプ)とも提携を発表するなど拡大を図る。MastercardやVISAといったクレジットカード世界大手や銀行の参入、さらには旅行業界向けに特化したBNPLもある。
国内で特徴的なものを見ると、例えばネットプロテクションズは台湾でAFTEE(アフティー)というブランドのBNPLの展開を開始。HAKKI(ハッキ)は、子会社HAKKI AFRICEをケニアで設立し、タクシードライバー向けに中古車のBNPLを提供しているという。著者は、国内市場においては今後、家電量販店、ホームセンター、ネットスーパーなどのBNPL参入の可能性も示唆している。
これだけ普及が進んでくると、心配になるのは、やはり、若い消費者や子どもによる使い過ぎ、詐欺のリスクだろう。実際、この本のなかでも悪用された事件・事故が紹介されている。批判の高まりもあって、規制強化の動きがある国もあるという。
悪用や事故を防ぐための最大限の努力はさればければならないが、リスクがあるからといって、尻込みしていては世界に出遅れかねないだろう。必要な規制も用意しつつ、より多くの人が、柔軟なサービスを便利に使えるよう、市場が活性化、成熟化していくことに期待したい。(文=情報工場「SERENDIP」編集部 前田真織)
SERENDIPサービスについて:https://www.serendip.site/
『BNPL 後払い決済の最前線 ―急成長する市場と日本・世界の先進事例50』
安留 義孝 著
一般社団法人 金融財政事情研究会
180p 1,650円(税込)