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コマツ・キャタピラー…大手建機が展開始めた「電動ショベル」、4つの長所と最大の難問

コマツ・キャタピラー…大手建機が展開始めた「電動ショベル」、4つの長所と最大の難問

キャタピラージャパンは20トン級電動ショベルの試作機を披露した

国内外の大手建設機械メーカーの電動ショベル展開がそろり始まった。脱炭素需要の高まりを背景に、米キャタピラーとスウェーデン・ボルボ建機はそれぞれ5月に製品を日本で初展示。コマツは2023年度に0・5トン級を日本で、20トン級を日欧で発売予定だ。ただメーカーを問わず、電池コストが重く車両価格が高い点が課題として残り、現状では「様子見ムード」が拭えない。本格普及には電池技術の発展がカギを握る。(編集委員・嶋田歩)

ボルボ建機は2・7トン級のコンパクト電動ショベル「ECR25エレクトリック」と電動ホイールローダー「L25エレクトリック」の2機種を、5月に幕張メッセ(千葉市美浜区)で開かれた展示会「建設・測量生産性向上展」に出展し、日本市場に投入した。「電動ショベルは競争力が高く、ソリューション販売も見込める」。アジア地域責任者のトマス・クタ氏は自信をみせる。日本だけでなく、韓国やシンガポールでも売り込む計画だ。

キャタピラージャパンも同展示会で20トン級と2トン級の電動ショベルの試作機を展示した。20トン級の稼働時間は8時間。ストラテジ&テクノロジマネージャーのアンディ・ファン氏は「商品化の時期は現時点では言えない」としつつ、現場で不足なく使える点や、新たなバッテリー開発が進んでいる点をアピールする。

ボルボ ECR25 エレクトリック油圧ショベル
竹内製作所の「TB20e」はレンタル会社を中心に販売実績がある

竹内製作所は21年7月に電動ミニショベル「TB20e」を発売し、現在までに約30台を販売した。満充電で8時間稼働でき、急速充電時間は2時間。「排ガスゼロという長所から屋内工事の需要が多いと見込んでいたが、実際には都市部の夜間工事の注文が予想以上に多い」(同社)。ディーゼルエンジンと比べ、作業時の騒音が小さい点が利用者から評価されているようだ。

コマツや日立建機住友建機、ボブキャット(横浜市港北区)も電動ショベルをそれぞれ開発している。

コマツとホンダが共同開発した電動マイクロショベル「PC05E-1」。着脱式可搬バッテリーを搭載する

コマツが23年度の国内販売開始を予定する0・5トン級のマイクロ電動ショベルは、ホンダと共同開発した着脱式可搬バッテリーを搭載しており、作業中に電池残量が少なくなっても電池を交換して作業を続けられる点が訴求ポイント。同じく23年度に日欧で発売予定の20トン級電動ショベルは、製品ラインアップの中で将来の主力を担える位置にある。ショベル市場の中で20トン級は販売ボリュームが多いからだ。

価格3倍、販売の中心は欧州 電池の専用開発不可欠に

各社の製品ラインアップに顔を見せ始めた電動ショベル。だが、現時点での販売台数は欧州が中心で、国内の実績は微々たるものだ。

電動ショベルは、既存のディーゼルエンジン仕様と比べ①排ガスが発生しない②騒音が小さい③低排熱④オペレーターの疲労が少ない―といった長所を持つ。一方、パフォーマンスの持続性、耐久性など複数の課題がある。その中でも最大の難問は価格だ。

電動ショベルの値段は、おおむねディーゼルエンジン仕様の3倍以上と言われる。近頃は乗用車で電動化が進んでいるが、ショベルは1台当たりの価格が数千万円などと高いだけに、コスト意識の強い日本で3倍以上の価格差は致命的だ。「ディーゼルエンジン車と違い、電動ショベルの国内販売はレンタルが主体になるだろう」。各社の社長らは口をそろえる。約30台の販売実績がある竹内製作所も、実は販売先の中心はレンタル会社だ。

日本市場で2トン級の電動ショベルを発売したボルボ建機は、欧州市場や北米で既に1000台近くの販売実績がある。機種も2トン級以外に、5トン級や23トン級もそろえる。クタ氏によると、ディーゼルエンジン仕様との価格差を埋める政府支援策などが販売を後押ししているという。

ノルウェーでは電動ショベル購入額のほぼ半額が当局の補助金でカバーされるという。価格が3倍として実質的な差は1・5倍まで縮小する。都市部や公園などにおける工事で、電動建機を優先して使用するよう促すなどの支援もある。

補助金に依存せずに電動ショベルを普及させるには、価格低減が不可欠。そのポイントとなるのは、コスト増の大半を占めるとされる電池だ。生産コスト低減のほか、稼働時間を長くし、充電時間は短くするといった性能向上も課題となる。建機は乗用車と比べ車体重量がケタ違いに大きいだけに、乗用車用のリチウムイオン電池(LiB)ではたちまちパワーを使い果たして立ち往生してしまうからだ。充電しようにも容量が大きいため長い時間がかかる。そもそも都市部と違って、現状では山奥の工事現場には充電ステーションもない。

こうした状況下で、コマツやキャタピラーなどは電動ショベルを脱炭素の唯一のゴールとはせず、水素エンジン燃料電池バイオ燃料などの研究開発も並行して進めている。キャタピラージャパンのアンディ・ファン氏は「研究開発の優先順位を当社が決めることはせず、市場次第に委ねる」と話す。現時点では大型ショベルでは、パワーを出せる水素エンジンを搭載する選択肢も有望と見ているようだ。

電動ショベルの電池をめぐる課題は、乗用電気自動車(EV)向け電池が進歩すれば解決に向かうようにも思えるが、建機開発担当者は「この先、乗用車向けに理想の電池が登場しても、建機にはそのまま使えない」と口をそろえる。

ショベルは掘削作業時に大きな振動や衝撃が生じる。それらから電池が受ける影響を和らげたり、電池の耐久性向上を図る課題もあり、さらなる研究が必要となる。乗用EV向け電池の技術を流用しつつも、建機専用の開発が求められる。


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日刊工業新聞 2023年06月05日

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