工場被災をきっかけに「環境と共存」、CO2削減が“売り”になる中小企業とは
NiKKi Fron社長・春日孝之氏 × 環境省脱炭素ビジネス推進室室長・平尾禎秀氏
「脱炭素にどう取り組んだらよいのか」「メリットは何か」。そんな疑問を持つ中小企業は少なくない。そこで中小企業の脱炭素化支援を担当する環境省脱炭素ビジネス推進室の平尾禎秀室長が中小企業2社の経営者をインタビューし、2回シリーズで方法やメリットを明らかにする。1回目はNiKKi Fron(長野市)の春日孝之社長。同社は二酸化炭素(CO2)排出量を2030年度までに21年度比30%削減する目標を設定した。
春日社長「再生エネ投資、事業拡大で回収」
平尾室長 脱炭素に取り組むようになったきっかけは。
春日社長 19年の台風で本社工場が被災した。自分たちが異常気象による自然災害の被害を受けるとは思っていなかった。同時に、環境と共存できる社会に向けて行動を起こさないといけないと思った。復旧に当たって経済産業省の補助金を活用して最新設備を導入すると、CO2排出量を20%削減できた。年1%減を目標としていたが、生産性向上で大きな削減を体験できたことで30年度までの目標を設定した。
平尾室長 排出削減が商売で“売り”になると感じることは。
春日社長 この数年で空気が変わり、大企業が我々のようなサプライヤーに協力を求めるようになった。CO2削減が取引先から評価される方向が見えており、2―3年後には評価ウエートが上がるだろう。コストが高くても取引先から評価された事例を聞くことがある。ただし「やっています」と言うだけの中途半端ではいけない。「再生エネ100%」のような“徹底”がないと評価されない。
平尾室長 評価があると言っても脱炭素にはコストがかかる。投資回収の見込みは。
春日社長 再生エネを導入しないと目標達成は厳しいが、いきなり高価なグリーン電力を購入する決断はできない。やはり既存ビジネスの競争力を高め、生みだした利益を配分する。場合によっては先行投資となるが、再生エネ投資をビジネス拡大によって回収する計画を策定中だ。既存の取引先に加え、排出削減を評価して取引を始める新規顧客の獲得を計画に落とし込む。
もちろん、ビジネスの現状維持で苦しんでいる中小企業もある。初めは省エネをやり切る。次の段階が設備の入れ替えだ。更新して生産性が向上し、改善した収益を原資にすれば再生エネ導入に挑戦できるようになるのではないか。
平尾室長 排出量の算定は。
春日社長 工場単位の排出量の算定はしていたが、設備単位となると分析手法がなかったので、地元の工業技術総合センターの支援を活用した。すると、購入している電力に由来した排出量が圧倒的に多いと分かった。焼成炉と空調の分が大きく、運用改善による削減余地が見えた。
平尾室長「中小中心に脱炭素を」
平尾室長 中小企業は地域で大きな役割を担っている。脱炭素でも中小企業が中心となって地域ぐるみで取り組んでほしい。
春日社長 地域の中核企業である中小企業も少なくない。中核企業に引っ張られて周囲の企業も底上げされるだろう。私以外の地元経営者も、自分たちで成功事例を示してけん引しようと話している。
平尾室長 取り組みで感じる課題は。
春日社長 太陽光パネルは生産地や廃棄処分の問題が取り沙汰されており、これから投資しようと思うと漠然とした不安がある。中小企業の太陽光パネル導入の指針を示してもらいたい。
平尾室長 今日、聞いた課題を整理し、情報発信を考えたい。
環境省、中小向け導入事例集公開
環境省は中小企業28社への支援実績を整理した「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入事例集」を公開した。フッ素樹脂の成形・加工事業などを展開するNiKKi Fronは、取引先から排出量算定状況を聞き取りされたことを紹介。削減対策として地元電気事業者や行政の支援メニューの活用を検討している。