障がい者雇用の職場に活力…エプソン「再生紙製造装置」の貢献
セイコーエプソンの再生紙製造装置「ペーパーラボ」が、障がい者雇用に貢献している。職場で古紙から再生紙を作れる画期的な製品として2016年に発売し、紙資源を循環利用できる環境性能が注目されてきた。再生紙の製造を障がい者に担当してもらう企業が増えており、福祉の側面からも製品価値が高まっている。
ペーパーラボは古紙を分解し、再び紙の形に整えて再生紙を製造する。書かれていた文字が消えるので、機密情報が記載された紙を社内で再生できる。
エプソン販売(東京都新宿区)は環境配慮や機密保持を訴求していたが、発売当初から障がい者の雇用を考えて導入する企業が多かった。17年3月に運用始めたトランスコスモスは、障がい者がペーパーラボで再生紙を製造して名刺や名刺箱、ノートなどを製作している。ペーパーラボは再生紙の厚みを変えて、さまざまな紙製品を作れる。
同社ではペーパーラボ導入前、使用済みの紙からホチキスを外す作業を障がい者が担っていたが、単純作業が多かった。導入後は紙製品の製作にやりがいが生まれた。月平均の作業人員は3人から6人に増え、雇用の拡大につながった。
東北電力もペーパーラボを活用して再生紙を製造している。障がい者が描いた絵をカレンダーなどの販促物に採用しており、「デザインの才能を生かせた」と障がい者が喜んでいるという。
エプソン販売P MD部(ペーパーラボ)の荒木朋彦課長は「障がい者の活躍の場を増やしたいと導入を検討する企業も多い」と語る。企業に義務付けている障がい者の雇用率が段階的に上がっていることが背景にあると思われる。
加えて環境・社会・企業統治(ESG)を重視する潮流もある。「サステナビリティー推進室や経営企画室など、経営層に近い部署が環境や人材の多様性に課題意識を持って導入を考えている」(荒木課長)と変化を語る。ペーパーラボは高価なため環境貢献だけを考えると購入に踏み切れないが、障がい者雇用やESG評価も含めた複合的な価値が認められている。
三浦工業、社外へ活動拡大 出前授業プロの一員に
三浦工業は19年、ペーパーラボを導入した。障がい者が社内印刷を担うブランド企画室印刷課の担当役員の発案だった。同社も障がい者雇用の拡大を課題と感じていた。
導入後、特例子会社のメンバーも加わり、障がい者が回収した紙の仕分けやペーパーラボの運転を担う。印刷課の西森桂三係長は「操作は簡単」と話す。1カ月に集まる紙は3万枚以上。再生紙で名刺やCSR報告書のほかノートやペーパークラフト、「SDGsかるた」も創作した。「自分たちで考えるので、やりがいを感じている」(西森係長)と声を弾ませる。
同社では来客用コースターも製作した。裏面に創業者の言葉を記すと、気に入って持ち帰る来客が多かったという。社内で評判となり、各部署から依頼があった。ただ、初めから順調ではなかった。「名刺が汚れていると社内からクレームが出た」(同)。再生紙はくすんだ色になるためだ。ペーパーラボの導入に当たっては、その意義を社員に伝える必要がありそうだ。
同社の活動は社外にも広がっている。22年、第一印刷(愛媛県今治市)や今治.夢スポーツ(同)と連携して「紙(かみ)ングバックプロジェクト」を立ち上げた。印刷課のメンバーらが中学校へ出前授業に出かけ、次に生徒が三浦工業を訪れて持参した古紙を再生し、学校で使う連絡帳やメッセージカードを作った。
23年は紙製品のデザインを障がい者から募集するコンテストも実施する。応募は6月15日から。「障がい者アーティストの世界を知ってもらいたい」(西森係長)と狙いを語る。紙資源の循環の輪が社外に広がり、同時に障がい者の活躍の場も広がろうとしている。